
銀行が融資を実行するか否かの判断を下す際、審査部門では「定量情報(数字)」と「定性情報(人物・事業内容など)」の両面から総合的に企業を評価します。以下、それぞれの観点から具体的に解説します。
1. 財務内容の健全性(定量的審査)
財務三表(貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書)をもとに、以下のような指標がチェックされます。
■ 自己資本比率
- 企業の総資産に対して自己資本がどの程度あるかを示す。
- 30%以上が一つの目安。20%を下回ると財務体質が弱いと見なされる傾向があります。
- 自己資本が少ないと、債務超過のリスクが高くなり、融資が通りにくくなります。
■ 債務償還年数(DSCR)
- 「借入金(税引後利益+減価償却費)」で計算。
- 数字が大きい=返済まで時間がかかる=リスク高と見なされる。
- 一般的には 10年以内が目安。それ以上の場合、金融機関は慎重になります。
■ キャッシュフローの状況
- 営業活動によるキャッシュフローがプラスであることが重要。
- 黒字決算でもキャッシュフローがマイナスなら「帳簿上の黒字」に過ぎないと評価され、マイナス材料になります。
■ 売上・利益の安定性
- 単年度の利益ではなく、過去3期の推移を見て判断。
- 増収増益の流れが続いているかどうかが重視されます。
2. 資金使途と返済原資の明確さ
銀行が最も重視するのは、「このお金はどう使われ、どうやって返ってくるのか」です。融資申請時には、以下のような資料で明確に示すことが求められます。
■ 資金使途の明示
- 設備投資、人件費、仕入資金、広告費など、具体的な内訳を提示。
- 「漠然とした運転資金」ではなく、資金繰り表や用途別予算書を添付することで説得力が増します。
■ 返済原資の説明
- 返済原資=利益営業キャッシュフロー。
- 担保や保証人よりも「返済能力」が本質的な審査対象。
- 事業計画書で「今後どのように利益を上げていくか」を具体的に説明できるかが重要です。
3. 経営者の人物評価(定性的審査)
担当者との面談や普段のやりとりの中で、経営者自身の信頼性・能力・熱意が評価されます。
■ 面談時の受け答え
- 数字に強い、論理的に説明できる、事業の将来像を描けている。
- 担当者はその場の印象だけでなく、稟議書に「人物評価」として記載します。
■ 経営者の経歴・実績
- 業界経験の有無、創業者であれば起業背景など。
- 同業界での実績やネットワークも加点要素になり得ます。
■ 誠実性と信頼構築
- 税務申告の適正さ、報告の正確さ、銀行からの問い合わせへの対応速度など、日常的な行動が信頼を形作ります。
4. 信用情報と金融機関との取引履歴
■ 信用情報(CIC/JICC/KSC)
- 個人事業主・法人代表者ともに、個人信用情報が確認されます。
- 消費者金融の借入、カード延滞、税金未納などがあれば、即となるケースも。
■ 他行からの借入状況
- 借入先が多いと、「資金繰りに困っている」と見なされる場合があります。
- ただし、メインバンクに対して開示し、計画的に返済できていれば問題視されません。
■ 既存取引の履歴
- 既存の融資で延滞がない、取引額が多い、定期的な報告をしているなどの履歴があると、評価は上がります。
- 銀行は「初見よりも実績」を重視する傾向が強いため、日頃の付き合いが長期的な信用形成につながります。
このように、銀行の融資審査は一つの基準で決まるのではなく、複数の観点からバランスよく判断されます。「数字」だけでなく「人」としての信頼や将来の見通しが問われるという点を意識して準備を進めることが重要です。
審査に通るための具体的な対策と準備のポイント
銀行融資の可否は、提出する資料の完成度だけでなく、事前の準備や日常の経営姿勢に大きく左右されます。ここでは、金融機関に「安心して融資できる」と思わせるための実践的な対策を紹介します。
1. 魅力的かつ現実的な事業計画書を作成する
■ 事業計画のつの柱
銀行が納得する事業計画書には以下の要素が必要です。
- マーケット分析:ターゲット市場の規模、競合との差別化ポイント
- 収支計画:売上・原価・利益の見通しを、少なくとも3年間分提示
- 資金繰り計画:キャッシュの流れと資金用途の明確化
数字は「根拠のある見積もり」が前提です。たとえば、月商を倍とする見込みを立てる場合は、「なぜそうなるのか」という論理的な説明と実行計画が必要です。
■ 計画書の提出はタイミングも重要
期末決算直後は資料が最新であり、計画との整合性がとりやすく、審査に好影響を与えることがあります。
2. 財務諸表の整備と改善努力を見せる
■ 試算表は常に最新のものを
直近の月次試算表が提示できない企業は、「財務管理が甘い」と見なされます。最低でも四半期ごとに更新された試算表を提出できる体制を整えましょう。
■ 数字の改善努力も重要
たとえ直近で赤字があっても、「コスト削減により翌期は黒字見通し」など、改善のプロセスを可視化することで、前向きな評価を得られる場合があります。
■ 税金・社会保険の納付状況を整える
納税・保険料の滞納がある場合、審査で大きなマイナスとなります。融資前に未納がある場合は、分納契約を結んでいる旨を説明することも一つの手段です。
3. 銀行担当者との信頼関係を築く
■ 「報・連・相」の習慣化
金融機関は「情報が届く企業」を好みます。売上の進捗、課題、資金繰りの見通しなどを適宜報告していくことが信頼を積み重ねる第一歩です。
■ 担当者の立場を理解する
融資稟議は担当者の手によって上司・審査部へ回されます。担当者が説明しやすいように、簡潔で論理的な資料を渡すことは、事実上の「融資支援」となります。
■ 事前相談の活用
融資申し込みの前に「資金調達を検討している」旨を打診し、銀行側の温度感や必要書類を確認するのが理想的です。いきなりの申込よりも、事前相談の方が受け入れられやすくなります。
4. 他の金融機関とのバランスを考慮する
■ 借入の集中は避ける
一行集中ではなく、複数行とのバランスを取ることで、銀行側にとっても「貸し倒れリスクを共同で負う」という意識が生まれやすくなります。
■ 信用保証協会の制度を活用
保証付き融資を活用することで、銀行のリスクが軽減され、融資実行のハードルが下がるケースもあります。ただし保証料率や保証枠にも限度があるため、制度の理解が必要です。
5. 面談時の心構えとプレゼンの要点
面談時のやりとりは、書類以上に強い印象を残します。以下の点を意識しましょう。
- 誠実かつ明確に話す:曖昧な回答やごまかしは
- 数字に基づいた説明:感覚ではなく「なぜ・どのように利益が出るのか」
- リスク認識を示す:リスクがあるなら「把握しており、このように対処する」と説明する
以上の対策を講じることで、銀行にとって「貸しても安心できる企業」と認識され、融資審査通過の可能性が高まります。準備とコミュニケーションの積み重ねこそが、金融機関との良好な関係構築につながるのです。
よくある落とし穴と成功事例から学ぶ融資獲得のコツ
銀行融資の審査は、単に「数字が良ければ通る」というものではありません。多くの企業が「ちょっとした準備不足」や「誤った認識」により、審査に落ちるケースがあります。一方で、決して財務状況が完璧でなくても、適切な対応で融資を勝ち取った成功例も数多くあります。ここでは、よくある失敗と成功事例から学ぶポイントを整理します。
融資審査でよくある落とし穴
1. 資金使途があいまい、または実態と異なる説明
銀行にとって、資金使途の明確性は融資判断の前提です。たとえば「運転資金」としながら、実際には既存借入の返済に充てようとする場合、金融機関の信頼を失う原因になります。
対策:
具体的な使途をなどで一覧にし、何にいくら必要かを明示するだけで印象が大きく変わります。
2. 決算書の信頼性が低い
粉飾決算や異常に粗雑な記帳があると、「経営の透明性がない」と見なされ、どれだけ説明しても信頼を得るのが難しくなります。
対策:
記帳・決算は税理士などの専門家に任せ、正確で一貫性のある資料を提出すること。特に、売上と原価の整合性はよくチェックされます。
3. 社会保険や税金の滞納がある
たとえ事業が好調でも、税や保険料の未納は「基本的な義務を果たせていない」として、大きなマイナス評価になります。
対策:
未納がある場合でも、金融機関には正直に伝え、「現在分納中で、完済時期は月」と説明することで、再評価される可能性があります。
4. 面談で受け答えが曖昧・一貫性がない
担当者の質問に対して要点がずれた回答をすると、「この経営者に返済計画を任せられるか?」という疑念が生じます。
対策:
事業の強み・課題・収益計画について、あらかじめ想定質問と回答を整理しておくと、面談がスムーズになります。
実際の成功事例に学ぶ「通る申請」の特徴
成功事例:赤字決算でも「改善計画」で逆転融資
ある製造業の企業は、直近期が赤字決算で銀行からの印象は悪いものでした。しかし、詳細な改善計画(新たな外注先の確保によるコスト削減策)と、来期の利益予測を具体的な見積書とともに提示することで、融資を実現しました。
ポイント:
数字だけでなく「将来への改善努力」を具体的に説明できるかがカギです。
成功事例:新設法人でも代表者の経歴と準備力で融資獲得
創業年未満の企業が、無担保で万円の融資を獲得。ポイントは、代表者が過去に上場企業のプロジェクトマネージャーを務めた実績と、しっかりとした市場調査に基づく事業計画書でした。
ポイント:
会社の履歴が浅くても、代表者の信用・経験・資料の説得力があれば審査は通ります。
成功事例:定期的な情報共有で信頼を構築
飲食店を経営する社は、毎月の売上推移と改善報告を銀行にメールで共有。結果として、必要時にスムーズな追加融資を受けられる関係を構築しました。
ポイント:
普段からの情報共有や誠実な対応が、「何かあれば相談できる会社」という信頼を生みます。
おわりに:融資成功の本質は「信頼構築」
銀行融資は「短期的に数字で勝負するもの」ではなく、「中長期的な信頼の積み重ね」で決まるものです。事業の将来性を信じてもらうには、現状の課題に正面から向き合い、改善策を言語化・数値化し、経営者自身が「覚悟と計画」を持っている姿勢を見せることが何より大切です。
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