
はじめに:なぜ今、固定費削減が重要なのか?
経済の先行きが不透明な今、中小企業にとって「利益を守る」ことはこれまで以上に重要です。とりわけ、インフレの影響によるコストの高騰や、人手不足による人件費上昇は避けがたい構造的課題となっており、多くの企業が収益性の低下に直面しています。
このような状況において、「売上を増やす」ことに加えて、支出の最適化によって利益率を改善するというアプローチが求められています。特に注目すべきが、企業経営において無意識に「固定化」されてしまっている固定費の見直しです。
たとえば、以下のようなケースは多くの企業に見られます:
- オフィス面積が以前より不要になったのに、同じ賃料を払い続けている
- 利用頻度の低いソフトウェアやツールの契約を惰性で継続している
- 人材配置が変化しているのに、役職手当や各種手当が過去のまま
こうしたコストは、売上が好調な時期には目立ちません。しかし、売上が減少したときや利益率が低下したときには経営の足を引っ張る要因となります。
実際、財務分析の現場でも、「売上が一定水準を下回った途端に赤字化する企業」の多くは、高止まりした固定費構造が原因です。逆に、固定費の構造を柔軟かつ最適に保っている企業は、売上変動の影響を受けにくく、利益を安定的に確保することが可能になります。
本記事では、固定費の基本的な考え方から、削減すべき対象の見極め方、そして実践的な見直し方法まで、経営の実務に役立つ知識とノウハウを提供します。戦略的なコスト改善によって、企業の収益体質をより強固なものにしていきましょう。
固定費とは?変動費との違いと削減対象の見極め方
まず、コスト構造を整理するために、「固定費」と「変動費」の違いを明確に理解しておきましょう。以下はそれぞれの定義と代表的な例です。
分類 | 定義 | 代表的な項目 |
固定費 | 売上や業務量に関係なく、毎月一定額が発生するコスト | 事務所賃料、人件費(正社員)、減価償却費、保守契約、通信費、保険料など |
変動費 | 売上・生産・取引量に応じて増減するコスト | 原材料費、仕入原価、外注費、配送費、販売手数料など |
固定費の特徴は、「支出の硬直性が高い」ことです。売上が減少しても即座に圧縮できるわけではなく、企業のキャッシュフローを圧迫する原因となります。だからこそ、経営環境が変化したときに、柔軟に対応できるコスト構造へと見直す必要があるのです。
固定費見直しのためのつの視点
- コストの実質的な利用価値を再評価する
- 例:利用頻度が下がったクラウドサービス、空室があるのに継続契約している倉庫など
- →「現状の業務に本当に必要か?」を定量的に見直す
- コストの削減可能性と交渉余地を調査する
- 例:長期契約しているリース契約や保守契約などは、契約見直しや解約交渉の余地あり
- →「競合と比較して割高ではないか?」の視点が有効
- 内部リソースで代替できるかを検討する
- 例:外部委託していた業務を自社で内製化する、人材シフトで業務効率を上げる
- →「費用対効果」が見合っているかの再確認が重要
このように、固定費削減は単なるコストカットではなく、経営戦略の一環としての「リソース最適化」であるべきです。特に、経理部門だけでなく、各部門と連携して定期的に固定費の見直しを行う体制を整えることが、持続可能な利益体質の構築につながります。
実践編:よくある固定費と見直しのポイント
固定費を削減する際に重要なのは、費用項目ごとに削減余地を的確に見極め、実行可能な対策を講じることです。ここでは、企業において多く見られる主要な固定費の種類ごとに、具体的な見直しポイントと実践例を解説します。
① オフィスの賃料・管理費
【現状の課題】
テレワークの定着や人員構成の変化により、使用していないスペースに対して高額な賃料を支払い続けているケースが多く見られます。
【見直しのポイント】
- 面積に対する従業員数のバランスを再評価
- オフィス移転、またはフロアの縮小交渉を検討
- サテライトオフィスやコワーキングスペースの活用も視野に
【実践例】
東京都内の中小企業では、社員の約割がリモート勤務に移行したため、オフィスを半分の広さに縮小。年間で約600万円の固定費削減に成功。
② 人件費(特に間接部門・管理職)
【現状の課題】
管理部門などの人員が過剰になっていたり、業務効率に見合わない給与体系が温存されている場合があります。
【見直しのポイント】
- 管理部門の業務効率化(や業務システム導入など)
- 業務の一部外部委託(給与計算、経理など)
- 成果ベースの評価制度への移行
【注意点】
- 単純な削減は社員のモチベーション低下を招く恐れがあるため、中長期的な再配置・育成戦略を併用することが重要
③ 通信費・関連費用
【現状の課題】
クラウドサービスや通信契約が増える中で、利用実態と費用が合っていない契約が放置されていることが多いです。
【見直しのポイント】
- 使っていないサブスクリプションの洗い出し
- モバイル・ネット回線のプラン見直し
- 重複するツール(となど)の統一
【実践例】
製造業の中小企業では、利用率の低い(・文書管理)を統合し、年間で120万円のコスト圧縮を達成。
④ 保守契約・サポート費用
【現状の課題】
コピー機、サーバー、セキュリティソフトなど、定額で支払っている保守契約が機器の使用頻度や稼働状況に見合っていない場合があります。
【見直しのポイント】
- 契約内容(対応時間・訪問回数)と実際の利用実績を照合
- 契約先の競合見積りを取得し、価格交渉を行う
- 契約を必要最低限に再構成する
⑤ 保険料・リース費用
【現状の課題】
長年見直されていない法人保険や設備・車両のリース契約は、コストのブラックボックス化が進んでいる場合が多いです。
【見直しのポイント】
- 保険契約の内容を定期的に精査(補償範囲とリスクの妥当性)
- 車両・複合機などのリース期間終了時に、買取か再リースかの再検討
- 同等の機能を持つ新規サービスとの比較調査
実践に向けてのチェックリスト
チェック項目 | 実施状況 |
固定費の一覧を最新の状態で把握している | □ |
使用頻度と支出額のバランスを分析している | □ |
同一カテゴリ内でのコスト比較を行っている | □ |
契約の自動更新項目を洗い出している | □ |
全社的なコスト意識を高める施策を行っている | □ |
このように、固定費の削減は多くの「気付き」と「仕組みの見直し」から始まります。一度の見直しで大きな成果が出ることもありますが、継続的なレビュー体制を整えることで、経営の健全性を中長期的に高めることが可能です。
固定費削減の落とし穴と成功に導くためのポイント
固定費の見直しは、企業の収益性を改善するうえで非常に有効な手段です。しかしながら、短期的な削減を優先しすぎた結果、長期的には事業に悪影響を与えてしまうケースも少なくありません。
ここでは、固定費削減における主な落とし穴と、それを避けながら成功に導くための戦略について解説します。
落とし穴:必要な投資まで削減してしまう
【問題点】
業務効率化のためのシステム、人材育成、マーケティング費用など、本来は「将来の利益を生む投資」までカットしてしまうと、企業の成長力が損なわれます。
【回避策】
- 削減対象を「浪費的固定費」と「戦略的固定費」に分類
- ROI(投資対効果)の観点から、費用の意義を再評価
- 「残すべきコスト」を見極め、意思決定にメリハリをつける
落とし穴:社員のモチベーションを損なう
【問題点】
手当の削減や設備の縮小、福利厚生の見直しなどは、社員の士気を下げ、生産性の低下や離職リスクの増加を招く可能性があります。
【回避策】
- コスト削減の「理由」と「目標」を社内で明確に共有
- 現場の声を反映した削減計画を立てる(トップダウンだけでなく、ボトムアップも活用)
- コスト削減と並行して「業務の質向上」「働きやすさ向上」も目指す
落とし穴:単発で終わってしまう
【問題点】
1回だけの見直しでは、時間の経過とともにコストが再び膨らむことが多く、削減効果が持続しないという課題があります。
【回避策】
- 四半期または半年ごとの固定費レビュー体制を整備
- 全社的な「コスト意識」を根付かせるための教育や評価制度を導入
- 支出データの「見える化」と「ダッシュボード化」により、定期的に可視化・改善
成功に導くつのステップ
- 全コストの可視化
勘定科目単位ではなく、実態に即したサービス・業務単位での把握を行う。 - 優先順位の設定
削減インパクトと業務への影響度をマトリクスで評価し、実行性の高いものから着手。 - 関係者を巻き込む
管理部門だけでなく、各部門リーダーの協力を得て、「自部署のコストは自部署で見直す」文化を醸成。 - 外部視点の活用
第三者によるコスト診断や、専門家(コストコンサルタント、税理士など)からのアドバイスを取り入れる。 - 成果のフィードバックと再投資
削減で生まれた余剰資金を、戦略投資や社員還元に活用し、好循環を生む。
おわりに:固定費見直しは守りではなく攻めの経営戦略
固定費の見直しは、単なる「コストカット」ではなく、限られた経営資源を最適に配分するための戦略的行為です。企業の体質をスリムかつ強固にし、環境変化に耐えうる柔軟な経営を実現するために、定期的なコスト構造の再点検は不可欠です。
売上が好調なときこそ、経費の構造に無駄が潜みがちです。今こそ、自社の固定費を見直し、「利益を最大化する体質づくり」に取り組んでみてはいかがでしょうか。
💡当社では、企業ごとの固定費分析・削減アドバイスを行っております。
「具体的に何から始めればいいか分からない」「第三者の目で見てほしい」とお考えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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