
はじめに:深刻化する後継者問題とその影響
日本経済の屋台骨とも言える中小企業ですが、現在その多くが「後継者不在」という深刻な課題に直面しています。中小企業庁の「中小企業白書」によると、経営者の年齢分布を見ると60歳以上が全体の約65%を占め、今後年以内に約万者が事業承継のタイミングを迎えるとされています。
しかし、後継者が決まっている企業はそのうちの割程度にとどまり、黒字経営にもかかわらず廃業を余儀なくされるケースが増加しています。この「黒字廃業」は、企業にとってだけでなく、従業員の雇用喪失、取引先の連鎖的な打撃、そして地域社会の経済基盤の縮小といった広範な影響を及ぼします。
後継者不足の原因としては、以下のような点が挙げられます:
- 子や親族が事業を継ぐことに消極的
- 従業員に承継する準備や意欲がない
- M&Aを検討しても条件に合う買い手が見つからない
こうした状況のなかで、企業オーナーが選択すべきは「親族への承継」か、それとも「第三者への承継」か。どちらを選ぶにしても、計画的かつ戦略的な判断が求められます。以下では、それぞれの承継手法について具体的に見ていきましょう。
親族承継の特徴とメリット・デメリット
親族承継とは、現在の経営者がその子や配偶者、兄弟姉妹、甥・姪などの親族に対して会社の経営を引き継がせる方法です。歴史ある企業や同族会社では最も一般的な承継形態であり、長期的視点での経営が可能になるという利点があります。
主なメリット
- 信頼と一体感がある経営が可能 親族であれば経営者の価値観や会社に対する思いを理解しているケースが多く、経営の一貫性が保たれやすいです。従業員や取引先からの信頼を得やすく、急な環境変化にも「一丸となって乗り切る」体制を構築しやすいといえます。
- 計画的な引き継ぎができる 早期から後継者教育を行えるため、経営スキルや人脈、暗黙知の伝承がしやすく、引き継ぎ後の混乱を最小限に抑えることが可能です。
- 税務上の優遇措置が利用できる 事業承継税制の適用を受けることで、贈与税・相続税の納税猶予や免除が受けられます。これにより、資産の移転コストを大幅に軽減することができます(ただし、適用には綿密な事前準備が必要です)。
主なデメリット
- 後継者の適性リスク 親族であるという理由だけで経営を引き継いでも、本人に意欲や能力が欠けている場合には企業価値の低下を招くリスクがあります。「親の後を継ぐのが当然」というプレッシャーが逆効果になるケースもあります。
- 親族内の争い(経営と相続の対立) 後継者を誰にするかを巡り、兄弟姉妹間で争いが起きることも珍しくありません。経営権の集中と財産分与のバランスをどう取るかは、慎重な検討が必要です。
- 組織の閉鎖性 家族経営にこだわるあまり、時代の変化に対応した新しい発想や外部人材の活用が進まず、イノベーションが停滞するリスクがあります。変革を求められる局面では「身内意識」が障壁となることも。
第三者承継の可能性と注意点(M&A含む)
第三者承継とは、親族以外の人物、すなわち会社の従業員や役員、または外部の企業・投資家などに事業を引き継ぐ方法を指します。近年、親族内に適任者がいないケースが増えたことから、M&Aを含む第三者承継のニーズが急速に高まっています。
中小企業庁の調査によると、2020年代に入ってからM&Aによる中小企業の事業承継件数は増加傾向にあり、とくに後継者難に悩む企業の「出口戦略」としてのM&Aは、有力な選択肢として注目されています。
第三者承継の主な種類
- 社内承継(従業員・役員への承継)
企業内で長年勤務している幹部社員や取締役に経営を引き継ぐケースです。社風や業務に精通しているため、比較的スムーズな承継が可能です。 - 社外承継(M&A)
第三者の企業や個人投資家に株式や事業を譲渡する方法です。買い手の経営資源を活用できるメリットがあり、経営再建や成長戦略の一環としても使われます。
主なメリット
- 広範な候補から適任者を選べる 親族に限らず、能力・意欲のある候補者を社内外から探すことができるため、経営のプロ人材による引き継ぎも可能になります。事業の将来性を重視した選択ができます。
- 企業の発展につながる可能性 では、譲受企業の営業網や技術力を活用することで、これまで以上に事業を拡大する道も開けます。たとえば地方の中小製造業が、首都圏の企業と組むことで全国展開を実現した事例もあります。
- 現経営者の資金回収(キャッシュアウト) 株式譲渡などにより、経営者は引退と同時に現金を得ることができます。これは退職金の代替や老後資金の確保としても非常に有効です。
主なデメリット・注意点
- 買い手との相性や信頼性の見極め とくにM&Aでは、買い手側の経営方針や企業文化が大きく異なると、従業員の離職や取引先との関係悪化を招く可能性があります。買い手選定とデューデリジェンス(企業調査)は極めて重要です。
- 情報開示や交渉の複雑さ 第三者に会社を譲渡するには、財務内容や法務状況の詳細な開示が求められます。交渉には高度な専門知識が必要であり、M&Aアドバイザーや弁護士、公認会計士など外部専門家の支援が不可欠です。
- 従業員・取引先への説明責任 突然の経営交代は、社内外の関係者に不安を与える可能性があります。信頼を損なわないよう、段階的かつ透明性のある情報共有が求められます。
成功事例の一例
たとえば、地方の老舗食品加工会社が後継者不在のためをM&A検討し、同業の大手食品メーカーに事業譲渡した事例があります。このケースでは、譲受企業の販路を活かして売上が2倍以上に伸びただけでなく、従業員の雇用も全員継続され、双方にとって「成長型の承継」となりました。
自社に合った承継方法を選ぶために:実務と戦略の視点から
事業承継は、単なる「引き継ぎ作業」ではなく、企業の未来を左右する戦略的な意思決定です。親族承継か、第三者承継かどちらが適しているかは企業の状況や将来ビジョンによって大きく異なります。ここでは、適切な承継方法を選ぶための実務的かつ戦略的なポイントをご紹介します。
【1】経営者としてまず整理すべきつの視点
- 後継候補者の有無と意欲 身内や社内に後継候補がいる場合、その人に本当に「経営者としての意志と覚悟」があるかを早期に確認する必要があります。本人にその意欲がない場合、親族承継に固執するのはリスクです。
- 企業の現状と将来性 自社が安定的なキャッシュフローを生んでいるのか、それとも新たな資本・ノウハウが必要なのかによって、選ぶべき承継方法は変わってきます。たとえば、競争が激しい業界に属している場合、外部パートナーとの連携(M&Aなど)によって再成長を図る選択も有力です。
- 関係者との調整 親族間や社内のキーパーソン、取引先、銀行など、利害関係者が多い中小企業では、承継の過程で信頼関係が損なわれないよう、丁寧な合意形成が不可欠です。誰に何を、どのタイミングで伝えるかの戦略が問われます。
【2】実務面での準備と支援体制の活用
事業承継は法務・税務・財務・人事と多岐にわたる手続きが伴い、準備不足はトラブルや課税リスクを招きます。以下のような専門家との連携体制の構築が極めて重要です。
- 税理士・公認会計士:事業承継税制や株式評価、相続対策の設計
- 弁護士:株主構成の整理、契約書類の整備、社内規程の見直し
- M&Aアドバイザー:買い手企業の選定、条件交渉、クロージング支援
- 金融機関や地域支援機関:資金調達やマッチング支援、公的補助金の活用
とくに第三者承継の場合は、信頼できる支援者の存在が成功の鍵となります。情報が非対称になりやすいの現場では、「相手企業の選び方」「譲渡価格の妥当性」「従業員への対応」など、プロの視点が不可欠です。
【3】時間軸を見据えた段階的な進行
事業承継は短期間で完結するものではありません。理想的には5〜10年スパンの計画が必要です。たとえば以下のようなステップで進めると効果的です:
- 1〜年目:承継の意向と候補者の確認、課題の洗い出し
- 3〜年目:後継者育成と内部体制の整備
- 5年目以降:正式な経営移譲、外部関係者への説明と移行完了
このように、計画的に準備を進めることで、混乱を最小限に抑えながらスムーズなバトンタッチが可能になります。
まとめと行動のすすめ
事業承継には正解が一つあるわけではありません。親族承継には「信頼と継続性」があり、第三者承継には「革新と発展の可能性」があります。重要なのは、自社の状況や後継候補の有無、将来のビジョンに応じて最適な選択肢を見極め、早めに動き出すことです。
特に第三者承継の場合、相手探しや条件交渉に時間がかかるため、「まだ先の話」と思わず、早期から検討を始めることが成功への第一歩になります。
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