
中小企業にとっての資金調達の重要性
日本の企業の%を占める中小企業にとって、資金調達は事業継続と成長の鍵を握る重要な要素です。売上の回収サイトと仕入の支払タイミングのズレによる資金ショート、設備投資や新規事業の立ち上げ、あるいは一時的な業績不振への対応など、企業が直面する課題において、外部資金は不可欠な解決手段となります。
とはいえ、多くの中小企業にとって金融機関との付き合いは簡単ではなく、「どの融資制度を選ぶべきか分からない」「銀行に断られてしまったらどうしよう」といった不安を抱える経営者も少なくありません。特に、「信用保証協会付き融資」と「プロパー融資」は、名前は聞いたことがあっても、その違いや適用のタイミングを正確に理解している方は限られています。
どちらの融資制度も企業に資金を供給する手段であることに変わりはありませんが、仕組みや審査基準、金融機関のスタンスが大きく異なります。これらを理解し、自社の状況に合った資金調達手段を選ぶことが、財務の健全性を維持し、持続的な経営につながります。
信用保証協会付き融資とは?仕組みと特徴
信用保証協会付き融資とは、公的機関である「信用保証協会」が、企業の借入に対して保証人の役割を担う融資制度です。これは、金融機関がリスクを軽減しながら中小企業への融資を積極的に行えるよう、国が支援する仕組みでもあります。
■ 信用保証協会の役割
信用保証協会は各都道府県に設置されており、地域の中小企業支援を目的としています。企業が金融機関から借り入れをする際に、信用保証協会が「保証人」となって、企業が返済できなくなった場合には代位弁済を行います。
つまり、金融機関から見れば、実質的に「国が後ろ盾となる保証付きの貸出」となり、信用リスクが大幅に減少します。そのため、自己資本が少ない企業や過去に赤字決算がある企業でも、一定の要件を満たせば資金調達が可能になります。
■ 融資の流れ
- 企業が金融機関に融資を申請
- 金融機関が信用保証協会に保証申込を行う
- 信用保証協会が審査を実施(企業の信用状況、事業計画、財務内容などを評価)
- 保証承諾後、金融機関が融資を実行
- 企業は信用保証協会に対して保証料を支払う
このように、信用保証協会付き融資は「金融機関の審査+信用保証協会の審査」という二段階の審査が必要です。そのため、申込から実行までには一定の時間を要します。
■ 主な特徴
特徴 | 内容 |
対象企業が幅広い | 創業間もない企業、財務内容が弱い企業も対象になり得る |
信用力が低くても可 | 信用保証協会の保証によって金融機関のリスクが低減される |
保証料が必要 | 年率0.4%〜1.0%程度の保証料を企業が支払う(地方自治体の補助がある場合も) |
利用上限がある | 原則として無担保枠は8,000万円、最大保証額は2億8,000万円(2025年時点) |
制度融資と連動可能 | 自治体が実施する制度融資と組み合わせることで、金利優遇や保証料補助を受けられることがある |
■ 利用されやすいケース
- 創業時や創業間もないタイミングでの資金調達
- 直近決算が赤字で、金融機関単独では融資が難しい場合
- 保証付きでまず実績を積みたいと考える企業
プロパー融資とは?メリット・デメリットを整理
プロパー融資とは、信用保証協会などの第三者保証を利用せず、金融機関が自らの信用判断にもとづいて直接貸し出す融資を指します。企業と金融機関の間に保証人が存在しないため、金融機関にとってはリスクが高く、貸し手の目線では信用力がある企業にしか行えない、いわば「銀行からの本格的な信頼の証」とも言える融資形態です。
■ 仕組みのポイント
信用保証協会付き融資と異なり、プロパー融資には第三者による保証がありません。貸し倒れリスクを金融機関が直接引き受けることになるため、企業に対する財務的評価、経営者の資質、過去の取引実績などが重視され、より厳格な審査が行われます。
また、担保や保証人の有無は個別判断となるため、企業の信用力によっては無担保・無保証でも融資が実行される場合もありますが、それはあくまで企業の格付けや信頼関係に基づくものです。
■ 主な特徴
特徴 | 内容 |
保証料が不要 | 信用保証協会を利用しないため、保証料の負担がない |
金融機関との直接取引 | 金融機関が責任をもってリスクを判断・管理する |
柔軟な融資設計が可能 | 金額、返済期間、条件などを柔軟に設計できるケースが多い |
高い信用力が前提 | 財務状況、キャッシュフロー、実績などが良好であることが前提 |
企業との関係性が重視される | 継続的な取引実績や経営者との信頼関係が重要な審査材料になる |
■ メリット
- 保証料がかからない
保証協会付き融資では年率0.4%~1.0%程度の保証料が必要ですが、プロパー融資ではこのコストが発生しません。結果として、実質的な資金調達コストを抑えることが可能です。 - 自由度の高い融資条件
プロパー融資は制度の制約が少ないため、用途や返済方法について柔軟な設計ができる点が特徴です。例えば、特定のプロジェクト資金や海外展開など、目的に応じたオーダーメイド型の資金調達が可能です。 - 金融機関からの信頼が見える化
プロパー融資を受けられるということは、金融機関が「この企業には返済能力がある」と認めたことを意味します。そのため、対外的にも信用力の高さを示す材料となり、取引先や投資家からの評価にもつながります。
■ デメリット
- 審査が厳しい
財務状況が弱い、業績が不安定、新規顧客である、というような場合には、プロパー融資は難しいことが多く、企業を選ぶ融資制度であると言えます。 - 金融機関にとってリスクが高い
保証がないため、金融機関側のリスクは全額自己負担になります。したがって、金融機関は融資額を抑えたり、担保や連帯保証人を求めることもあります。 - 初めての融資では難しいケースも
企業としての信用力が蓄積されていない創業期や、金融機関との取引実績がない場合には、いきなりプロパー融資を受けることはほぼ不可能といえます。
■ 利用されやすいケース
- 黒字経営が継続しており、自己資本比率が高い企業
- すでに保証協会付き融資の枠を使い切っている企業
- 金融機関との間に強い取引関係がある場合(例:メインバンク取引が長期にわたる)
- 資金使途が多様で、制度融資では対応が難しいプロジェクトに着手する場合
どちらを選ぶべきか?企業の成長段階に応じた使い分け
信用保証協会付き融資とプロパー融資は、どちらが「優れている」と一概に言えるものではありません。企業の成長段階や財務状況、資金の使途や金融機関との関係性に応じて、最適な選択肢は変わってきます。
以下に、一般的な成長フェーズに応じた使い分けの指針をご紹介します。
■ 創業期・スタートアップ段階(0〜3年目)
この段階では、実績も担保力も乏しいため、信用保証協会付き融資が現実的な選択肢です。各自治体の「創業支援融資」や「制度融資」を活用すれば、保証料や利息の一部補助を受けることも可能です。
また、信用保証付き融資は金融機関にとってもリスクが低いため、創業間もない企業でも資金調達しやすい点がメリットです。
▶ おすすめ:信用保証協会付き融資(制度融資の併用も検討)
■ 成長期・安定期(3〜10年目)
一定の売上・利益が確保できるようになり、財務内容も安定してくると、プロパー融資の可能性が見えてきます。この段階では、まず信用保証付き融資で実績を積み、その後、プロパー融資へと徐々に切り替えていくのが一般的です。
プロパー融資が実現すれば、保証料が不要になり、資金使途の自由度も高まります。また、金融機関との関係性を深めることで、今後の大型投資や事業拡大時に有利に働くことも多いです。
▶ おすすめ:信用保証協会付き融資プロパー融資への移行
■ 成熟期・次のステージへの挑戦段階(10年目以降)
この段階では、複数の金融機関と良好な取引関係を築いているケースも多く、プロパー融資をメインに資金調達を組み立てることが理想的です。財務面での信頼性が高ければ、長期資金や大型融資、さらにはノンバンクからの資金調達も視野に入ってきます。
一方で、信用保証協会付き融資は「保証枠」の制限があるため、一定以上の規模の融資には不向きです。プロパー融資によって柔軟かつ戦略的な資金運用が可能となり、より自由な成長戦略を描けます。
▶ おすすめ:プロパー融資を活用しつつ、保証付きは補完的に使う
■ 判断に迷ったときは専門家に相談を
信用保証協会付き融資とプロパー融資は、それぞれに強みと適性があります。「どちらか一方」と考えるのではなく、企業の成長ステージや資金の使い道に応じて併用することも選択肢です。
また、金融機関によってもスタンスは異なります。ある銀行ではプロパー融資が難しくても、別の金融機関では柔軟に対応してくれることもあります。複数行と付き合いを持ち、自社にとって最適なファイナンス戦略を構築していくことが大切です。
■ まとめと行動のご案内
資金調達の選択は、企業経営の未来を左右する重要な判断です。信用保証協会付き融資は「信用力を補完する制度」、プロパー融資は「信用力を証明する制度」と言えるでしょう。企業の今の立ち位置と、これから目指す未来を照らし合わせて、適切な資金調達戦略を描いていくことが求められます。
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