NO193【銀行との付き合い方を見直す・複数行との取引メリットとリスク】

2025/04/15 9:32:53 - By zaimclinic
資金繰り改善 NO3
資金繰り改善 NO193銀行との付き合い方を見直す|複数行との取引メリットとリスク

  

はじめに:銀行取引の「見直し」が企業経営にもたらす影響

企業にとって銀行との取引は、単なる融資や預金のやり取りにとどまりません。日々の資金繰りはもちろん、成長投資のタイミング、景気後退期の資金ショート対策、さらにはM&Aや事業再編といった経営の転換期にも、金融機関との関係は大きな意味を持ちます。

その一方で、長年同じ金融機関との関係を続けている企業ほど、「見直し」を行うことに消極的になりがちです。信頼関係を重視するのは重要ですが、金融機関側の融資スタンスが変わったり、担当者の交代によって支援姿勢が揺らぐことも少なくありません。また、金融庁のモニタリング強化などにより、地域金融機関の経営統合や業務再編が加速する中、行依存型の経営体制はリスクを高める方向にあると言えるでしょう。

現在では、金融取引も「戦略的」に設計する時代です。資金供給の安定性を担保しつつ、経営の選択肢を拡げ、競争力を高めるためにも、銀行との付き合い方を定期的に見直すことが、健全な財務戦略に直結します。

 


 

複数行と取引することのメリットとは?

単一の銀行との深い関係を維持しつつも、複数の金融機関と適度な距離感で取引を持つことで、企業の財務体制には以下のような多層的なメリットが生まれます。

 

1. 資金調達の選択肢と迅速性の確保

1行のみとの関係では、その銀行の融資判断に全てが左右されてしまいます。融資判断が慎重な方針に転じた場合、たとえ自社の業績に問題がなくても資金調達が滞る可能性があります。

複数行と取引していれば、資金ニーズの性質に応じて銀行ごとに適切なスキームを選択することができ、特に以下のような状況では柔軟性が発揮されます。

  • 設備投資など長期資金はメガバンク
  • 短期資金やつなぎ資金は地銀・信用金庫
  • 補助金付き制度融資や公的融資は政策金融機関 など

このように目的別に最適な金融機関を使い分けることで、タイムリーかつ戦略的な資金調達が可能になります。

 

2. 競争原理を活かした交渉力の向上

金融機関は自社にとって重要な顧客を囲い込みたいと考えています。複数の銀行と一定の取引関係を持つことで、それぞれの銀行が自社に対してより積極的な条件を提示してくることが期待できます。

具体的には以下のような効果が見込めます。

  • 金利条件の引き下げ
  • 融資期間や返済猶予の延長
  • 担保や保証条件の緩和

こうした競争環境を自社に有利に働かせるためには、各銀行との情報の非対称性を最小限に抑え、財務状況を誠実かつ公平に開示する姿勢が重要です。

 

3. 金融機関からの多様な視点・情報の獲得

銀行は日々多数の企業と接しており、経済・業界の最新動向、取引先の財務状態、設備投資の傾向、補助金制度の活用法など、多様な情報を持っています。

特に以下のような情報は経営判断において価値があります。

  • 業界他社の財務傾向や経営戦略
  • 地域経済の景況感や人口動態
  • 資金繰り改善に有効な金融商品の紹介
  • 政策金融の活用事例

1行のみから得られる情報には限界がありますが、複数の銀行から話を聞くことで、多角的な視点から自社の立ち位置や課題を把握しやすくなります。

 

4. 財務リスクの分散と危機対応力の強化

自然災害やパンデミック、取引先の倒産など、経営に不可抗力なリスクが発生した際、1行のみとしか取引していない場合には、資金供給がストップする恐れがあります。

例えば以下のようなリスクが存在します:

  • メインバンクの不祥事や経営悪化による支援打ち切り
  • 地域金融機関の合併・統合による方針転換
  • 担当者変更による関係性の希薄化

複数行と日頃から一定の信頼関係を築いておくことで、突発的な資金ショートや返済交渉の際にも柔軟な支援が得やすく、企業としての耐久力が高まります。

 


 

複数行取引に潜むリスクと注意点

複数の銀行と取引を持つことは、資金調達の柔軟性や情報収集の面で多くのメリットがありますが、その一方で、注意すべきリスクや運用上の課題も存在します。これらを理解し、適切にマネジメントすることが、複数行取引を有効に活用するカギとなります。

 

1. 情報開示の手間と整合性管理の負荷

複数の銀行と良好な関係を築くためには、それぞれに対して定期的な財務資料の提出や、業況説明を行う必要があります。これには以下のような課題が伴います:

  • 財務報告の頻度が増える
  • 各銀行の質問や懸念への個別対応
  • 情報の一貫性を保つための内部調整

特に、各行に提供する情報の整合性が取れていない場合、「企業としての信頼性」に疑念を持たれるリスクがあります。たとえば、銀行Aに「今期は増収増益見通し」と説明しながら、銀行Bには「厳しい状況で資金支援が必要」と伝えるような矛盾があると、信用にヒビが入ります。

したがって、複数行との関係を築く際には、社内で情報の一元管理体制を整え、全行に対して同一基準で開示する姿勢が求められます。

 

2. メインバンクとの関係が希薄化する可能性

複数の金融機関とバランスよく取引することは望ましい一方で、従来のメインバンクとの関係が薄れすぎてしまうと、いざというときの支援が得られにくくなる可能性があります。

銀行側から見ると、「この企業は当行を特別に重視していない」と感じれば、積極的なサポートや融資提案を控えるようになることも考えられます。特に以下のようなケースでは注意が必要です:

  • メインバンクからの借入残高比率が急激に低下している
  • 定例の面談や報告が疎かになっている
  • 他行の提案ばかりを採用している

企業としては、メインバンクには一定の信頼と情報を継続的に提供し、「何かあったときに最初に相談する先」としての立場を明確にしておくことが重要です。

 

3. 融資条件の分散による財務管理の複雑化

複数行と融資契約を結ぶことで、契約条件が多様化し、財務管理が煩雑になるリスクがあります。以下のような項目に注意が必要です:

  • 金利や返済スケジュールのバラつき
  • 担保の重複設定(共有担保や順位の問題)
  • 財務制限条項(コベナンツ)の内容差

特に財務制限条項が銀行ごとに異なる場合、ある銀行との契約違反が他行との信頼関係に波及するリスクがあります。また、担保設定についても、同じ資産に複数行が抵当権を設定している場合は、優先順位によって大きなトラブルに発展する可能性があります。

こうした点を避けるためには、借入条件をエクセル等で一覧管理し、契約内容の見える化と一元管理を行うことが非常に有効です。

 

4. 銀行間の関係悪化による逆効果

金融機関同士も競合関係にあるため、特定の銀行との関係が密接すぎると、他の銀行が取引に消極的になることもあります。以下のような誤解が生じやすい場面には注意が必要です:

  • 他行に比べて極端に高い借入比率や優遇条件がある
  • 他行との交渉結果をそのまま別行に提示する
  • 銀行主導のや事業再生案件で意見が分かれる

銀行間に見えない緊張関係が生まれると、企業が本来得られるはずのサポートが受けられなくなる可能性もあるため、各行との情報共有や取引条件のバランスには十分な配慮が必要です。

 


 

効果的な銀行対応戦略と見直しの進め方

複数行との取引を戦略的に行うためには、単に「数を増やす」ことではなく、自社の財務状況・成長ステージ・経営課題に即した関係性の構築が不可欠です。ここでは、実践的な銀行対応戦略と、定期的な見直しの進め方について解説します。

 

1. 金融機関の「役割分担」を明確にする

複数行と取引する際は、それぞれの銀行の得意分野や立ち位置を踏まえて、明確な役割分担を設けることがポイントです。以下のような分類が考えられます:

 

役割

金融機関の例

主な活用場面

メインバンク

メガバンク・地銀・信金

長期資金・業況報告・経営支援

サブバンク

地銀・信金・信組

短期資金・取引の補完

特殊目的行

政策金融公庫・商工中金

補助金連動融資・特別枠活用

取引テスト行

新規金融機関

競争性導入・将来の選択肢確保

 

このように、金融機関ごとに「何を期待するのか」「どの領域を任せるのか」を整理しておくことで、無駄な重複や不均衡を避けることができ、交渉も円滑になります。

 

2. 取引金融機関の「定期評価」を行う

金融機関も企業と同じく変化する存在です。支店の方針転換や担当者の異動、上層部の判断などにより、関係性やサービス内容が大きく変わることがあります。そのため、定期的に取引金融機関の評価を行うことが大切です。

評価の観点としては以下のようなものが挙げられます:

  • 融資対応のスピードと柔軟性
  • 担当者の対応品質と提案力
  • 経営支援や情報提供の質
  • 他行との競争力(条件・姿勢)

年に1回など定期的に取引状況を棚卸しし、「今後も主力として付き合うべきか」「取引量の見直しが必要か」といった判断を下すとよいでしょう。

 

3. 財務・銀行対応を担う社内体制の整備

複数行と安定的な取引関係を築くには、社内の財務担当者のスキルと体制が非常に重要です。特に次のような機能が求められます:

  • 財務データの即時提出体制(試算表・資金繰り表など)
  • 各銀行の融資条件・契約の一元管理(エクセルやクラウドツール)
  • 交渉の記録と対応履歴の共有(チーム内でのナレッジ管理)
  • 経営層との情報共有と意思決定支援

特に中小企業では財務・銀行対応が経営者に集中していることが多く、属人的な運用となりがちですが、組織的な対応力を高めることで、銀行との信頼関係もより強固なものになります。

 

4. 銀行見直しの進め方と交渉の注意点

取引行を増やす・減らすといった見直しを行う際には、単純な「打ち切り」ではなく、戦略的かつ丁寧な対応が求められます。例えば以下のようなステップが有効です:

  1. 目的の明確化:新規調達ルートの確保か、条件交渉の強化か、明確にする
  2. 候補金融機関の選定:地元金融機関や特定業種に強い行を比較検討
  3. 初期接触とテスト取引:当座預金開設や小口融資から関係を構築
  4. メイン/サブの再定義:取引量の配分を調整し、銀行側にも意図を共有
  5. 既存行への説明:他行との取引増加については誠意を持って説明し、信頼を損なわないよう配慮

また、複数行に対して同時に融資の提案を依頼する際は、過度な相見積もりの印象を与えないよう、透明性と礼儀を意識した交渉が必要です。

 


 

まとめ:金融関係の見直しは「守り」と「攻め」の両輪

銀行との付き合い方を見直すことは、資金繰りの守りだけでなく、成長機会を掴む攻めの戦略でもあります。複数行との取引を通じて、資金調達力・交渉力・情報力を高めると同時に、関係性のマネジメントを怠らないことで、安定した財務基盤を築くことが可能です。

 

📩財務体制の見直しや金融機関との交渉でお困りの方は、ぜひ当社までご相談ください。

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