資金繰り改善 NO25
【社長の個人資産を担保に融資を受ける際のポイントと注意点】
中小企業の経営者にとって、事業運営や拡大のための資金調達は欠かせない課題です。しかし、会社単体の信用力や資産規模が十分でない場合、金融機関からの融資が難航することがあります。その際、社長の個人資産を担保として融資を受けるという選択肢が考えられます。
個人資産を担保にすることで、会社の状況にかかわらず融資を受けられる可能性が高まりますが、一方で社長自身に大きなリスクが伴う方法でもあります。本記事では、この融資手段の仕組み、メリット・デメリット、実際の手続きの流れ、注意点、成功事例を交えながら詳しく解説します。
1. 社長の個人資産を担保にする融資の仕組み
1-1. 個人資産を担保にするとは?
「個人資産を担保にする」とは、社長が保有する資産(不動産、預貯金、有価証券など)を金融機関に担保として提供することで、会社が融資を受けられる仕組みです。これは、会社の信用力を補完する方法であり、金融機関が貸倒れリスクを軽減するために活用されます。
万が一会社が融資を返済できなくなった場合、担保に差し入れた資産が売却され、金融機関の損失を補填します。そのため、金融機関は社長の個人資産を担保にすることで、会社に対する融資実行をより前向きに検討することができます。
1-2. 担保にできる資産の種類
金融機関が担保として受け入れる主な個人資産は以下の通りです:
・不動産:自宅や投資用不動産、土地など。評価額が安定しており、最も一般的な担保資産です。
・預貯金:定期預金や普通預金。特に固定された定期預金は信頼性の高い担保資産とされます。
・有価証券:株式、国債、社債など。時価評価が行われ、現金化しやすい資産が適しています。
・生命保険契約:解約返戻金のある生命保険契約も担保として利用可能です。
2. 社長の個人資産を担保にするメリット
2-1. 資金調達がしやすくなる
会社の財務状況が厳しい場合でも、個人資産を担保にすることで金融機関の貸出リスクが低下し、融資が実行されやすくなります。特にプロパー融資(保証協会を利用しない融資)では担保の有無が大きな影響を及ぼします。
2-2. 融資条件が有利になる
担保を提供することで、無担保融資よりも低金利で借りられる可能性が高まります。また、融資限度額が増加し、事業に必要な資金を十分に確保できるケースもあります。
2-3. 短期的な資金ニーズに対応できる
個人資産を担保にすることで、事業拡大や急な資金需要など、短期的な資金調達をスムーズに進めることが可能です。
3. 社長の個人資産を担保にするデメリット
3-1. 個人リスクが高まる
会社が融資の返済を滞納した場合、担保に提供した個人資産が差し押さえられ、売却されるリスクがあります。場合によっては社長個人の生活基盤が失われる可能性もあります。
3-2. 資産の自由が制限される
担保に提供した資産は、金融機関の許可がなければ売却や譲渡ができなくなります。不動産の場合は担保設定が登記に記載されるため、他の取引に影響を与えることがあります。
3-3. 社長個人の信用リスクが増大
会社が返済不能に陥ると、社長個人の信用情報にネガティブな影響を与える可能性があります。特に、個人保証も同時に行っている場合は、返済義務が個人に直接及びます。
4. 融資の具体的な流れ
4-1. 担保資産の評価
金融機関は、提供される資産の価値を詳細に評価します。不動産の場合は公示価格や鑑定評価額が基準となり、有価証券は市場価格が適用されます。生命保険の場合は解約返戻金を基に評価されます。
4-2. 融資の申し込み
金融機関に融資を申し込む際には、以下の書類を提出します:
・会社の財務資料(損益計算書、貸借対照表など)。
・事業計画書(融資の目的、資金使途、返済計画を具体的に記載)。
・担保資産の証明書(登記簿謄本、預貯金証書、保険契約書など)。
4-3. 審査
金融機関は、会社の返済能力、事業の将来性、担保資産の価値を総合的に評価します。担保の価値が高い場合、審査は通りやすくなりますが、返済能力も重要な判断基準です。
4-4. 担保設定
融資が承認されると、担保資産に担保権が設定されます。不動産の場合は司法書士が登記手続きを行い、金融機関が担保権を持つことが記録されます。
4-5. 融資の実行
担保設定が完了後、融資金が会社の口座に振り込まれます。
5. 注意点とリスク管理
5-1. 適正な担保評価を行う
担保に提供する資産が過剰でないかを確認します。金融機関から要求される以上の資産を差し入れる必要はなく、リスクを最小限に抑えることが重要です。
5-2. 現実的な返済計画を立てる
無理のない返済計画を立てることで、会社のキャッシュフローを安定させます。万が一、返済が困難になる場合に備えて代替策も検討しておくべきです。
5-3. リスクを分散する
社長個人の資産を担保にする場合でも、他の資金調達手段(補助金、自己資金、保証協会の活用など)を併用することでリスクを分散させます。
5-4. 専門家に相談する
担保設定や融資契約には、税務や法務に関する専門知識が必要です。税理士や弁護士、財務コンサルタントに相談し、最適な条件で契約を進めることがリスク軽減のポイントです。
6. 成功事例:製造業B社のケース
(背景)
製造業B社は、事業拡大のために新しい生産設備を導入する計画を立てました。しかし、会社の財務状況では3,000万円の融資を受けることが難しく、金融機関から担保の提供を求められました。
(対応策)
社長が所有する評価額4,500万円の自宅を担保に差し入れ、融資を申し込みました。さらに、事業計画書で新設備導入後の売上増加見込みを詳細に説明し、返済計画の実現性を示しました。
(結果)
・金融機関から3,000万円の融資が実行されました。
・設備導入後、生産効率が向上し、翌年の売上が25%増加しました。
・順調な返済により、担保設定を予定より早く解除することができました。
(まとめ)
社長の個人資産を担保にする融資は、会社単体の信用力では難しい資金調達を可能にする効果的な手段です。ただし、リスクを慎重に検討し、最悪の事態を想定した準備を行うことが不可欠です。
(ポイントのまとめ)
・担保に提供する資産の価値を適切に評価する。
・無理のない返済計画を立て、会社のキャッシュフローを守る。
・リスク分散策を取り入れ、個人リスクを軽減する。
・税理士や弁護士、財務コンサルタントなど専門家のアドバイスを活用する。
この手段を正しく活用することで、会社の成長に必要な資金を確保し、経営の安定を図ることが可能です。ぜひ、事業計画の一環として慎重に検討してください。