資金繰り改善 NO31
【役員借入金を返済しないことで得られる効果】
中小企業が事業を安定させるためには、資金繰りの適切な管理が不可欠です。そのために利用できるさまざまな手段の中で、役員借入金の返済を一時的に止めることは、非常に有効な方法の一つです。役員借入金とは、会社の経営者や役員が個人資金を会社に貸し付けたものを指し、通常は余裕があるときに返済を行います。
この返済を延期または停止することで、会社の手元資金を守り、運転資金として活用できるようになります。本記事では、役員借入金の返済を止めることが中小企業の資金繰り改善にどのように役立つかを、具体的な実例とともに解説します。
1. 役員借入金とは?
1-1. 役員借入金の基本的な仕組み
役員借入金とは、役員(通常は社長や取締役など)が会社の資金不足を補うために、自分の個人資金を会社に貸し付けたものです。資金不足を補うために臨時的に行われるケースが多く、銀行融資と比べて迅速かつ柔軟に対応できるのが特徴です。
役員借入金は貸付金であるため、将来的には会社から役員に返済される義務があります。しかし、その返済タイミングは柔軟に決定できるため、会社の資金状況に応じて調整が可能です。
1-2. なぜ役員借入金が発生するのか
以下のような理由で役員借入金が発生することが一般的です:
・銀行融資の審査が通るまでの一時的な資金補填。
・緊急の支払い(仕入れ代金、給与、税金など)のため。
・新規事業や設備投資のための資金補填。
2. 役員借入金の返済を止めるメリット
役員借入金の返済を一時的に停止することは、会社の資金繰り改善に大きな効果をもたらします。以下にその具体的なメリットを解説します。
2-1. 手元資金を守ることができる
役員借入金を返済する必要がなくなることで、手元資金が減少せず、運転資金として利用可能な資金が確保されます。これにより、仕入れ代金や従業員給与、税金などの優先度が高い支払いに充てることができます。
実例:製造業A社のケース
A社は、資金繰りが厳しくなるたびに社長が個人資金を貸し付けていました。売上が安定してきたため役員借入金を返済し始めましたが、急な設備修理費用が発生。返済を一時停止し、確保した資金で修理費用を賄うことで、製造ラインの停止を防ぎました。
2-2. 短期融資への依存を回避できる
役員借入金の返済を停止することで、資金繰りのために新たな短期融資を受ける必要がなくなります。これにより、利息負担が減少し、財務コストの削減が可能です。
実例:物流業B社のケース
B社は、役員借入金の返済を続けるために銀行から短期融資を利用していました。しかし、返済を一時停止することで短期融資の必要性がなくなり、年間で約30万円の利息負担を削減しました。
2-3. 財務体質の健全化につながる
役員借入金は、会社にとって「負債」として貸借対照表に記載されますが、その返済を停止することで、実質的に返済義務が緩和され、負債の圧迫感が軽減されます。銀行や投資家からの印象も改善する場合があります。
実例:IT企業C社のケース
C社は、役員借入金を大幅に抱えていることで財務内容が悪化していると評価され、追加融資が難航していました。役員借入金の返済を停止し、実質的な資金余裕を確保したことで、銀行との信用を回復し、新たな融資を受けることに成功しました。
3. 役員借入金返済を止める際の注意点
役員借入金の返済を停止することには多くのメリットがありますが、慎重に対応しなければトラブルや誤解を招くことがあります。以下の注意点を押さえたうえで実施しましょう。
3-1. 合意書を作成する
役員借入金の返済を停止する際には、役員との間で合意書を作成し、書面に残すことが重要です。この合意書には、返済延期の理由、期間、再開の条件などを明記します。
例:製造業D社
D社では、返済停止に関する書面を作成して役員全員の署名を取得。返済再開時にトラブルが発生しないよう、明確な条件を記載しました。
3-2. 税務面の注意
役員借入金の返済を停止する場合、その借入金が「実質的に返済義務のない資金提供」と見なされると、贈与や役員報酬とされる可能性があります。税理士に相談し、税務上の問題がないことを確認しましょう。
例:小売業E社
E社は、役員借入金の返済停止が税務上問題になることを避けるため、毎年度末に借入金の棚卸しを行い、返済義務が明確であることを記録しました。
3-3. 返済再開の計画を立てる
返済を停止したとしても、いずれ再開することを前提とし、返済計画を立てておくことが必要です。会社の財務改善が進んだ際にスムーズに返済を再開できるよう、計画を見直しましょう。
例:飲食業F社
F社は、資金繰り改善の目途が立つまで返済を停止。その間に財務状況を見直し、翌年度から分割返済を再開する計画を策定しました。
4. 成功事例:建設業G社のケース
(背景)
建設業G社では、新規案件のために多額の資材を仕入れる必要がありました。一方で、役員借入金の返済が月々100万円発生しており、資金繰りが厳しい状況が続いていました。
(対応策)
・役員借入金の返済を一時停止。
・仕入れ費用を手元資金から賄い、追加融資を避ける。
・役員間で合意書を作成し、トラブルを防止。
(結果)
・仕入れ費用を確保し、新規案件を無事完遂。
・月々100万円の余裕資金を確保し、運転資金を安定化。
・新規案件の利益により、翌年から返済再開の目途が立った。
5. まとめ
役員借入金の返済を一時的に停止することは、資金繰り改善の強力な手段です。この方法を活用することで、以下のような効果を得られます:
・手元資金の確保:運転資金の不足を防ぎ、優先度の高い支払いに充てられる。
・利息負担の削減:短期融資への依存を減らし、コスト削減が可能。
・財務の健全化:実質的に負債圧力を軽減し、信用力を高める。
ただし、役員間の合意形成や税務上の留意点、返済再開の計画など、慎重な対応が求められます。成功事例を参考に、会社の状況に応じて柔軟に取り入れてみてください。