資金繰り改善 NO37
【前受け金・着手金で資金繰りを改善】
中小企業にとって、資金繰りは経営の安定を維持する上で最も重要な課題の一つです。特に、サービス提供や製品の納品後に代金を回収する「後払い方式」の取引では、回収までの期間が長引くことでキャッシュフローが圧迫されることがあります。この問題を解決するための有効な手段として、「前受け金」や「着手金」の導入が注目されています。
本記事では、前受け金や着手金をもらうことで資金繰りを改善した中小企業の成功事例を紹介します。
(資金繰りと前受け金・着手金の重要性)
中小企業の資金繰りの多くは、売上から回収までの期間(売掛期間)に依存しています。この期間が長いと、支出が入金を上回り、資金繰りが苦しくなることがあります。特に次のような状況では、資金繰りの問題が顕著です。
・売掛金回収までの期間が長い
取引先の支払い条件によっては、納品後に数カ月待たされることがあります。
・先行投資が必要
材料費や人件費などを前もって支払う必要がある場合、現金不足が生じやすくなります。
・入金の遅延
取引先が予定日に支払いを行わない場合、さらなる資金不足に陥ります。
このような問題を解消するために効果的な方法が、契約時点で前受け金や着手金をもらう仕組みを導入することです。
(前受け金・着手金とは?)
前受け金と着手金は、契約時点や業務開始時に取引先から一定額の支払いを受け取る仕組みです。これにより、事業者は提供する商品やサービスの一部代金を事前に確保できます。
・前受け金
契約金額の一部または全額を前もって支払ってもらう方式。
・着手金
業務開始時に、進行状況に関係なく一定額を支払ってもらう方式。
これらは特に、プロジェクト型の事業や製造業、サービス業で導入されることが多く、資金繰りを改善する大きな効果があります。
(前受け金・着手金のメリット)
1. 資金繰りの安定化
前受け金や着手金を受け取ることで、入金を前倒しできるため、現金不足のリスクを軽減します。これにより、運転資金を確保しやすくなります。
2. 支出の負担軽減
材料費や外注費などの支出に充てる資金を事前に確保できるため、先行投資が必要なプロジェクトでも安心して取り組めます。
3. 取引の信用性向上
取引先に前受け金を支払ってもらうことで、契約の実行性が高まり、双方の信頼関係が強化されます。
4. キャッシュフローの改善
入金タイミングが早まることで、キャッシュフローの見通しが明確になり、計画的な経営が可能になります。
(前受け金・着手金を導入した成功事例)
事例1:建設業のA社(従業員25名)
課題
A社は住宅のリフォーム工事を請け負う中小企業です。工事を受注すると、資材調達や人件費に多額の先行投資が必要でした。しかし、代金の回収が工事完了後になるため、資金繰りが厳しく、金融機関からの借入を繰り返す状態に陥っていました。
対策
A社は、契約時に工事代金の30%を前受け金として受け取る仕組みを導入しました。取引先には、前受け金の必要性を丁寧に説明し、納得してもらいました。
結果
・資金繰りが安定し、借入額を50%削減。
・材料費の支払いをスムーズに行えるようになり、工事の進行が効率化。
・取引先から「計画的に対応できる」との評価を得て、受注件数が前年対比20%増加。
事例2:ITサービス業のB社(従業員15名)
課題
B社は、システム開発を行う中小企業で、大手クライアント向けの受託業務が中心でした。しかし、開発業務の着手時点で外注費や人件費が発生する一方、代金の支払いはプロジェクト完了後という条件が多く、運転資金不足に悩んでいました。
対策
B社は、新規契約時に着手金として契約金額の50%を受け取る条件を設定しました。さらに、開発が進むごとに段階的に代金を回収する「分割支払い方式」を導入しました。
結果
・着手金の導入により、開発開始前の資金不足が解消。
・外注先への支払いがスムーズになり、プロジェクト進行が円滑化。
・クライアントから「透明性が高い」と評価され、リピート率が向上。
事例3:デザイン会社のC社(従業員10名)
課題
C社はウェブサイト制作を主力とする小規模なデザイン会社です。プロジェクト開始時に打ち合わせやリサーチに時間を費やす一方で、代金は納品後に一括で受け取る契約が多く、常に現金不足に陥っていました。
対策
C社は、プロジェクト開始時に30%、中間段階で50%、納品後に残り20%を受け取る「分割支払い方式」を導入。これにより、着手金と途中入金を確保しました。
結果
・資金繰りが大幅に改善し、経営の安定化を実現。
・従業員への給与支払いが遅れるリスクが解消。
・顧客との関係が強化され、新規案件の受注が前年比25%増加。
(前受け金・着手金の導入方法)
1. 条件設定
契約書に前受け金や着手金の条件を明記します。具体的な金額や支払いタイミングを明確に記載することが重要です。
2. 取引先への説明
前受け金の必要性を取引先に説明し、事前に納得してもらいます。資金調達の背景やメリットを分かりやすく伝えましょう。
3. 請求書の発行
契約締結後、速やかに請求書を発行します。請求書には、前受け金の詳細を記載し、取引先が確認しやすいようにします。
4. システムの活用
契約書管理や請求書発行を効率化するために、専用のクラウドシステムを活用するのも効果的です。
(注意点)
前受け金や着手金を導入する際には、以下の点に注意が必要です。
1. 取引先の状況を考慮
前受け金の導入が取引先にとって負担となる場合があります。相手の資金状況を把握し、適切な条件を設定しましょう。
2. 法的要件の確認
前受け金や着手金に関する契約書の内容が、法的に問題ないか確認してください。特に消費者契約法に該当する場合は慎重な対応が必要です。
3. 誤解を防ぐコミュニケーション
取引先が前受け金を不当な要求と感じないよう、丁寧に背景やメリットを説明することが重要です。
(まとめ)
前受け金や着手金の導入は、中小企業が資金繰りを改善し、経営を安定化させるための有効な手段です。成功事例からもわかるように、導入により運転資金を確保し、キャッシュフローを円滑化できます。
自社の経営状況を見直し、前受け金や着手金の導入を検討することで、資金不足のリスクを軽減し、健全な経営を実現しましょう。