NO40【債権・債務の相殺で資金繰りを改善】

2024/12/03 9:19:41 - By zaimclinic
資金繰り改善 NO2
資金繰り改善 NO40

【債権・債務の相殺で資金繰りを改善】


中小企業にとって、資金繰りの安定は経営を継続するための重要な課題です。特に、売掛金(債権)の回収と買掛金(債務)の支払いが同時に発生する場合、タイミングのズレや支払い遅延が資金繰りを圧迫することがあります。このような状況で有効な手段が、相殺(そうさい)の活用です。

相殺とは、互いに持つ債権・債務を差し引きして清算する仕組みのことで、実質的に現金の移動を伴わずに決済が完了します。本記事では、相殺の仕組みとその効果を解説するとともに、実際に相殺を活用して資金繰りを改善した中小企業の事例を紹介します。


(債権・債務の相殺とは?)

債権・債務の相殺とは、2つの当事者間で互いに持つ債権(支払いを受ける権利)と債務(支払いをする義務)を差し引きし、金額を清算する方法です。たとえば、A社がB社に対して売掛金を持ち、同時にB社がA社に対して買掛金を持っている場合、両者の金額を相殺することで、残額のみを決済するか、または決済を不要にできます。


(相殺の基本条件)

・互いに債権・債務を持っていること

・債権・債務が同じ性質であること(例:現金支払いが前提)

・双方の同意があること(ただし、特定のケースでは法律により一方的に相殺可能)


(債権・債務の相殺がもたらすメリット)

相殺を活用することで、次のようなメリットが得られます。


1. 現金の流出を防ぐ

相殺により、実際の現金支払いを減らすことができるため、手元資金を確保できます。これにより、運転資金の不足を防ぎ、短期借入の必要性を軽減できます。


2. 支払い遅延のリスク低減

債務の支払いを相殺で済ませることで、取引先への支払い遅延が発生するリスクを軽減し、信用を維持できます。


3. 経理業務の効率化

相殺を利用すれば、債権と債務の管理が簡素化され、経理業務の負担が軽減します。特に取引先が多い場合、この効果は顕著です。


4. 不良債権リスクの軽減

未回収の債権が相殺によって消滅するため、不良債権化のリスクを減少させることができます。


(債権・債務の相殺を導入した成功事例)

事例1:製造業のA社(従業員50名)

(課題)

A社は、部品の製造と販売を行う中小企業で、特定の大手取引先B社から原材料を仕入れながら、完成品を納品するという相互取引がありました。しかし、A社が持つB社への売掛金(800万円)と、B社への買掛金(500万円)が同時に発生しており、A社の資金繰りを圧迫していました。


(対策)

A社はB社と協議し、互いの債権・債務を相殺する契約を結びました。この契約では、B社の買掛金500万円を売掛金から差し引き、残額300万円のみをB社から入金してもらう形にしました。


(結果)

・実際の現金移動が300万円のみとなり、A社は500万円分の手元資金を確保。

・資金繰りが改善し、翌月の仕入資金が確保できた。

・経理処理が簡素化し、管理コストが10%削減。


事例2:建設業のB社(従業員30名)

(課題)

B社は、資材販売業者C社と長年の取引関係があり、C社に資材を販売する一方、C社から重機をリースしていました。しかし、B社がC社に持つ売掛金(200万円)の回収が滞っており、一方でリース料(180万円)の支払い期限が迫っていました。


(対策)

B社はC社に提案し、互いの債権・債務を相殺することで、残額20万円のみをB社がC社から受け取る形にしました。


(結果)

・リース料の支払い遅延を回避し、信用低下を防止。

・売掛金の回収リスクを解消し、不良債権化を未然に防ぐことに成功。

・相殺契約を定例化し、両社の資金繰りが安定化。


事例3:ITサービス業のC社(従業員20名)

(課題)

C社は、ウェブ開発業務を請け負う企業で、顧客であるD社から定期的に案件を受注していました。同時に、D社からサーバーのクラウド利用サービスを購入していましたが、相殺の仕組みがなかったため、売掛金と買掛金が別々に管理されていました。この状況が、資金繰りに不透明感をもたらしていました。


(対策)

C社はD社と協議し、毎月の売掛金と買掛金を相殺するルールを導入しました。具体的には、売掛金が100万円、買掛金が60万円の場合、相殺後の差額40万円をD社がC社に支払う形としました。


(結果)

・毎月のキャッシュフローが明確化し、資金管理が容易に。

・未払いリスクの減少で、資金計画の精度が向上。

・両社間の取引関係が強化され、年間取引量が15%増加。


(債権・債務の相殺を導入する手順)

1. 現状の債権・債務状況を把握

取引先ごとの売掛金と買掛金を明確にし、相殺が可能な金額を特定します。経理部門の協力を得て、タイムリーに情報を管理することが重要です。


2. 取引先との協議

相殺のメリットや具体的な方法を取引先に提案し、合意を得ます。契約書や覚書を作成して、条件を明文化します。


3. 相殺ルールの設定

定期的な相殺を実施する場合、月末締めで相殺を行うなどのルールを設定します。この際、管理を効率化するために専用システムの導入を検討するのも効果的です。


4. 運用と定期的な見直し
相殺を導入した後は、取引先の状況や未回収売掛金の動向を定期的に確認し、ルールを改善します。



(注意点)

1. 取引先の同意が必要

相殺を行うには取引先の同意が必要です。一方的な相殺は信頼関係を損なう可能性があるため、事前の説明が重要です。


2. 法的リスクの確認

相殺には法的な制約がある場合があります。特に倒産手続きが進行中の相手に対する相殺は法律で制限されることがあるため、専門家に相談することをお勧めします。


3. 資金管理の徹底

相殺を導入しても、手元資金の管理を怠ると資金繰りに問題が生じる可能性があります。キャッシュフロー全体の見直しを併せて行いましょう。


(まとめ)

債権・債務の相殺は、中小企業が資金繰りを改善するために有効な手段です。実際の現金移動を減らし、不良債権リスクを軽減し、取引関係を強化する効果が期待できます。本記事で紹介した成功事例を参考に、自社の取引先との債権・債務状況を見直し、相殺の導入を検討してみてください。