
資金繰り改善 NO41
【遅延損害金請求で資金繰りを改善】
はじめに
中小企業の経営において「資金繰り」は重要なテーマです。たとえ売上が増加していても、入金が滞ることで資金不足に陥り、事業運営が困難になるケースが少なくありません。この問題を放置すると、仕入れ代金や従業員給与の支払いが遅れ、さらには事業そのものが危機に瀕する可能性もあります。
こうした課題を解決するための一つの有効な手段が「遅延損害金請求」です。本記事では、遅延損害金の仕組みと中小企業がそれを活用する方法、さらに実際の成功事例をもとに、どのように資金繰りを改善できるかを詳しく解説します。
◇ 遅延損害金とは?
(遅延損害金の定義)
遅延損害金とは、契約で定められた支払い期日を過ぎた際に発生する補償金の一種です。支払いを行わなかった債務者が、遅延によって債権者に生じた損害を金銭的に補填する目的で支払います。
法的には、主に以下のような根拠に基づいて請求が行われます:
・民法
2020年4月に改正された民法において、一般的な債務の遅延損害金の利率は年5%と定められています。
・商法
商取引の場合、2020年以降、遅延損害金の法定利率は年3%となっています。ただし、契約書でこれ以上の利率を設定することも可能です。
(契約条項)
契約書で遅延損害金について具体的な取り決めがある場合、それが優先されます。
(遅延損害金請求の重要性)
中小企業が直面する資金繰りの現実
中小企業において、売上の入金が予定通りに行われないことは珍しくありません。原因として、取引先の資金繰り悪化、経理の遅れ、業界特有の商習慣などが挙げられます。このような状況が続くと、以下のような問題が発生します:
(短期的な運転資金不足)
納入先からの支払いが遅れることで、原材料費や人件費などの固定費が支払えなくなる。
(追加的なコスト発生)
不足した資金を補うために短期融資を利用せざるを得ず、利息負担が増加する。
(信用力の低下)
仕入れ先や金融機関に対する支払いが遅れることで、企業の信用が低下するリスク。
(遅延損害金がもたらす効果)
遅延損害金を請求することで、取引先に以下のようなメッセージを伝えることができます:
・支払い遅延が債権者にとっていかに重大な問題であるかを認識させる。
・契約条項や法的義務を遵守する重要性を理解させる。
・今後、支払い遅延を防ぐための意識改革を促す。
ケーススタディ:遅延損害金請求で資金繰り改善に成功した事例
(背景)
東京都内で印刷業を営むC社は、従業員30名規模の中小企業です。同社は、広告代理店D社を主な取引先として、定期的にパンフレットやポスターの印刷を請け負っていました。しかし、D社からの支払いが度々遅れ、契約で定められた30日以内の支払い期日が60日以上遅れることが続いていました。
C社は仕入れ代金の支払いに困窮し、キャッシュフローを補うため銀行からの短期融資を繰り返す状況に陥っていました。このままでは経営が立ち行かなくなるという危機感を持ったC社は、遅延損害金請求の導入を決断しました。
(対応策)
1. 契約書の見直し
C社は契約書を再確認し、支払い遅延が発生した場合には年3%の遅延損害金を請求できる条項が含まれていることを確認しました。さらに、今後の契約では遅延損害金を明確にする項目を加えました。
2. 支払い督促プロセスの強化
経理部門に支払い管理を強化する指示を出し、取引先に対して支払い期日前にリマインドメールを送付する体制を整えました。
3. 実際の遅延損害金請求
D社が再び支払いを遅延した際、未払い金額と遅延損害金の内訳を明記した請求書を発行しました。C社はD社に対し、遅延損害金の重要性を丁寧に説明し、今後の支払い期日遵守を強く求めました。
(結果)
・キャッシュフローの改善
D社が支払いを改善したことで、C社は定期的なキャッシュフローを回復しました。これにより、短期融資の必要性が減少し、年間で約100万円の利息削減が実現しました。
・取引先の意識変化
D社は、遅延損害金が取引先に与える影響を理解し、以降は支払い期日を遵守するようになりました。
・内部業務の効率化
経理部門が過剰な督促業務に追われることがなくなり、本来の業務に集中できるようになりました。
(遅延損害金請求のメリット)
1. キャッシュフローの安定化
支払い遅延が解消されることで、安定的な資金流入が実現します。これにより、企業は予定通りの支払いを行えるようになります。
2. 取引先の行動改善
遅延損害金を請求することで、取引先に支払い期日を守ることの重要性を再認識させる効果があります。
3. 経営リスクの軽減
短期融資の必要性が減り、利息負担や追加費用が削減されるため、経営のリスクを軽減できます。
(導入時の注意点)
1. 取引関係の悪化リスク
遅延損害金請求が原因で取引先との関係が悪化する場合があります。そのため、請求の際には誠実な対応が求められます。
2. 契約書の明確化
契約書に遅延損害金に関する条項が含まれていない場合、請求が難しくなります。事前に契約内容を確認し、不備があれば修正することが必要です。
3. 法的サポートの活用
複雑な場合には、弁護士や財務コンサルタントのアドバイスを受けることをおすすめします。
(遅延損害金の請求プロセス)
ステップ1:契約書の確認
まず、契約書に遅延損害金に関する条項が含まれているかを確認します。必要であれば、新たな契約書を作成します。
ステップ2:支払い状況のモニタリング
支払い期日を過ぎた場合は、迅速に取引先に通知します。
ステップ3:請求書の発行
遅延損害金の計算を行い、正確な請求書を発行します。
ステップ4:フォローアップ
取引先との交渉を行い、期日内の支払いを促します。
(まとめ)
遅延損害金の請求は、中小企業の資金繰りを改善する有効な手段です。適切な手続きと丁寧な対応を行うことで、キャッシュフローの安定化、取引先の意識改善、経営リスクの軽減といった効果が期待できます。ただし、取引関係を損なわないよう、法的根拠を確保しつつ柔軟に対応することが重要です。中小企業経営者は、遅延損害金の活用を検討し、より安定した経営基盤を築いてください。