
資金繰り改善 NO42
【役員貸付金と賞与の相殺で資金繰り改善】
はじめに
中小企業が健全な財務体質を維持するためには、資金繰りの安定が欠かせません。その中で見落とされがちな課題が「役員貸付金」の存在です。役員貸付金とは、会社が役員に対して貸し付けた資金のことを指し、適切に管理されない場合、企業の資金繰りを圧迫する原因となります。
役員貸付金が長期間にわたり回収されない場合、会社のキャッシュフローは悪化し、外部からの融資に頼る必要が出てきます。しかし、この問題は役員賞与と相殺することで解決できるケースがあります。本記事では、役員貸付金と賞与の相殺がどのように資金繰り改善に寄与するのか、具体的な実例を交えながら詳しく解説します。
◇ 役員貸付金とは?
(役員貸付金の定義)
役員貸付金とは、会社が役員個人に貸し付けた金銭のことを指します。一般的には、以下のようなケースで発生します:
・会社の資金を役員が一時的に流用
急な資金需要に応じるため、会社から役員個人に資金を貸し付けるケース。
・役員報酬や経費精算の過不足
役員報酬の過払い分や経費の未清算が役員貸付金として計上されるケース。
・事業投資や個人事業関連
役員が個人事業を運営しており、その運転資金として会社から借り入れを行うケース。
(役員貸付金が問題となる理由)
役員貸付金が長期間にわたり回収されない場合、以下のような問題が生じます:
・資金繰りの悪化
貸付金が回収されない限り、会社の現金資産が減少し、運転資金が不足します。
・税務上のリスク
役員貸付金は、税務上、給与として認定される可能性があります。この場合、会社側に追加の法人税負担が発生します。
・財務体質の悪化
貸付金が回収されないことで、会社のバランスシートが悪化し、信用力の低下につながります。
(役員貸付金と賞与の相殺の仕組み)
相殺の基本的な考え方
役員貸付金の回収が滞っている場合、その金額を役員賞与(ボーナス)と相殺する方法が有効です。具体的には、役員に支給される予定の賞与額から貸付金を差し引き、実際の支給額を調整する仕組みです。
例として、以下のような場合を考えます:
・役員貸付金:500万円
・支給予定の賞与:700万円
この場合、賞与支給額から貸付金を差し引いた200万円を実際に役員に支払い、残りの500万円を貸付金の返済に充当します。
(税務上の注意点)
役員貸付金と賞与の相殺を行う際は、税務上の取り扱いについて注意が必要です:
・賞与の適正な設定
賞与額は役員の業務内容や会社の利益水準に応じて合理的に設定される必要があります。不合理に高額な賞与設定は、税務署から指摘される可能性があります。
・相殺の明確化
貸付金の返済として賞与を充当する場合、その金額が明確に帳簿上記録されている必要があります。
・税務署への事前相談
相殺の方法や金額について事前に税務署に確認することで、後のトラブルを回避できます。
ケーススタディ:役員貸付金と賞与の相殺で改善された資金繰り
背景
関東地方で製造業を営む中小企業E社は、従業員50名規模の会社です。同社では、代表取締役が個人事業の資金需要を補うために会社から合計1000万円の貸付を受けていました。しかし、この貸付金は5年以上回収されておらず、E社の資金繰りを圧迫する原因となっていました。
さらに、E社は近年の原材料費高騰の影響で運転資金が不足し、銀行からの短期融資に依存する状況に陥っていました。そこで、E社は経営コンサルタントの助言を受け、役員貸付金と賞与の相殺を導入することを決定しました。
(対策の実施)
1. 貸付金の状況確認
E社はまず、貸付金の明細を整理し、利息計算や返済計画を再検討しました。代表取締役との面談を通じ、現状の問題点を共有しました。
2. 賞与額の適正化
代表取締役に支給予定の役員賞与は800万円でした。この金額を1000万円の貸付金返済に充当するため、賞与を「現金支給ゼロ」に設定し、全額を相殺に回しました。
3. 会計処理の調整
貸付金と賞与の相殺に関する会計処理を正確に行い、帳簿上で明確に記録しました。さらに、税理士に相談し、税務署への報告手続きも適切に実施しました。
(結果)
資金繰りの改善
相殺によって役員貸付金の一部が返済されたため、E社のバランスシートが改善され、資金繰りに余裕が生まれました。
(融資依存の削減)
キャッシュフローの安定化により、銀行からの短期融資の必要性が低下しました。これにより、年間で約50万円の利息負担が削減されました。
(税務リスクの回避)
税理士のサポートにより、相殺に関する税務リスクを回避でき、税務調査でも問題が指摘されませんでした。
(役員との信頼関係強化)
代表取締役が会社の経営状況を理解し、返済を進めたことで、役員と従業員の信頼関係が強化されました。
(役員貸付金と賞与相殺のメリット)
1. 資金繰りの改善
役員貸付金が返済されることで、会社の現金資産が増加し、資金繰りが安定します。
2. 税務リスクの軽減
賞与を貸付金返済に充当することで、役員貸付金が給与とみなされるリスクを軽減できます。
3. 財務健全化
貸付金残高が減少し、会社の財務体質が改善します。これにより、金融機関からの信用が向上します。
(導入時の注意点)
1. 明確な記録の保持
貸付金の返済と賞与相殺に関する記録を詳細に残すことで、税務調査や将来の会計処理に備えます。
2. 役員との合意形成
相殺の実施前に、役員との間で十分なコミュニケーションを行い、合意を得ることが重要です。
3. 専門家の活用
税務や会計の知識が必要となるため、税理士や経営コンサルタントのサポートを受けることを推奨します。
(まとめ)
役員貸付金と賞与の相殺は、中小企業が抱える資金繰りの問題を解決するための効果的な手段です。適切な会計処理と税務対応を行うことで、貸付金の回収が進み、会社のキャッシュフローが改善します。また、役員との信頼関係を強化し、財務健全化を促進することが可能です。
中小企業経営者の皆さまは、専門家の助言を活用しながら、この方法を積極的に検討し、より安定した経営基盤を築いてください。
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