資金繰り改善 NO46
【入金未了の売上に賞与を支払わない仕組みで資金繰り改善】
はじめに
中小企業が健全に成長するためには、資金繰りの安定が欠かせません。売上が順調であっても、顧客からの支払いが遅れることで資金不足に陥るリスクがあります。この問題は、特に賞与支払いの時期に顕著になります。
賞与は従業員のモチベーションを維持するために重要な制度ですが、入金未了の売上を基に賞与を計算して支払うと、現金の不足が悪化し、経営全体に負の影響を与えかねません。このような課題を解決するための有効な手段として、「入金未了の売上に対して賞与を支払わない」という新しい仕組みがあります。
本記事では、この仕組みの概要、導入方法、成功事例、そして注意点を解説し、資金繰り改善の具体的な戦略としての有用性を考察します。
◇ 資金繰りの課題と賞与支払いの関係
資金繰りの基本的な問題点
中小企業の資金繰りに関する課題の多くは、売上計上のタイミングと実際の入金のタイミングが一致しないことから生じます。このギャップは、特に以下の状況で顕著です:
・支払いサイトの長期化
取引先との契約条件により、支払いが60日、90日、場合によっては120日後に行われることがあります。その間、現金が回収されないため、資金不足が発生します。
・未収金の発生
顧客が支払いを遅延するか、最悪の場合、支払わないまま取引が終了するケースもあります。これにより、帳簿上は売上が計上されていても、現金としての収益が確保できない状況が生じます。
・短期融資や割引手形の多用
未収金が多いと、資金繰りを補うために短期融資や手形割引を頻繁に利用する必要があり、その結果、利息負担や手数料が経営を圧迫します。
(賞与支払いが資金繰りに与える影響)
賞与は従業員の士気を高め、企業の成長を促進するための重要な仕組みですが、一方で以下のような資金繰りへの負担を生じさせます:
・高額な現金支払い
賞与は通常の給与よりも高額であるため、支払い時には多額の現金が一度に流出します。
・入金未了売上を基にした支給
実際に入金されていない売上を基に賞与を計算すると、企業のキャッシュフローが悪化し、経営が不安定になる可能性があります。
・キャッシュフローの不一致
売上高が上がっても入金が遅れると、賞与支払いに必要な現金が確保できず、外部からの資金調達を余儀なくされます。
(入金未了の売上に対して賞与を支払わない仕組み)
基本的な仕組み
この戦略は、賞与支払いの基準を「入金済み売上」に限定することで、キャッシュフローの安定化を図るものです。以下のような運用が行われます:
・入金済み売上を基準とする賞与計算
顧客からの入金が確認されていない売上は、賞与計算の対象外とします。
・未収金が入金された場合の追加入金制度
後日、未収金が回収された場合、その分を次回の賞与に反映します。
・例外条件の設定
特定の取引条件や長期プロジェクトについては、柔軟な運用を行うルールを設定します。
(メリット)
1. キャッシュフローの安定化
未入金売上を基にした賞与支払いを避けることで、現金不足が緩和されます。結果として、仕入れ代金や運転資金の確保が容易になります。
2. 財務リスクの軽減
短期融資や割引手形の利用を減らすことができ、利息負担や手数料の削減につながります。
3. 従業員の意識改革
賞与が入金済み売上に連動することで、従業員が顧客へのフォローアップや支払い条件の確認に積極的に関与するようになります。
4. 経営の透明性向上
賞与支払いの基準が明確になることで、従業員や経営陣の間での信頼関係が向上します。
(導入の手順)
ステップ1:現状分析
売上計上から入金までのプロセスを詳細に確認し、未入金売上がどの程度発生しているかを把握します。
賞与支払いの現状と資金繰りへの影響を分析します。
ステップ2:新ルールの策定
「入金済み売上」を賞与計算の基準とするルールを明文化します。
特定の条件下で例外を設ける場合は、それを明確に記載します。
ステップ3:従業員への説明
新ルールの趣旨を全従業員に説明し、キャッシュフロー改善の必要性を共有します。
意見交換を行い、従業員の理解を深めます。
ステップ4:運用開始とモニタリング
新しい基準に基づいて賞与を計算し、実施します。
入金率や資金繰りの改善効果を定期的にモニタリングし、必要に応じて調整します。
(成功事例)
事例1:製造業A社
背景
A社は、従業員100名規模の金属加工業を営む中小企業です。主要取引先の支払いサイトが90日以上と長く、未収金が常態化していました。この状況が賞与支払いに影響を与え、短期融資の利用が増加していました。
解決策
・賞与支給基準を「入金済み売上」に変更。
・従業員による支払いフォローアップ体制を強化。
結果
・資金繰りの安定化
短期融資の必要がなくなり、年間で約500万円の利息が削減されました。
・未収金の減少
従業員が顧客対応を強化したことで、未収金が30%減少。
事例2:IT企業B社
背景
B社は、ITサービスを提供する企業で、未入金売上が慢性的な問題となっていました。従業員は賞与が固定額で支給されるため、顧客へのフォローアップを重視していませんでした。
解決策
賞与計算基準を「入金済み売上」に限定。
クラウドツールを導入し、入金状況を可視化。
結果
・効率的な賞与支払い
賞与支給額が適正化され、現金不足が解消されました。
・従業員の意識改革
顧客対応の質が向上し、入金率が50%改善しました。
注意点
・従業員とのコミュニケーション
・ポリシー変更が従業員の士気に影響を与える可能性があるため、十分な説明が必要です。
・顧客との関係維持
支払いサイトが長期化している顧客に対して、条件変更の交渉を行うことが重要です。
定期的な見直し
新ルールの運用状況を定期的に確認し、現場のニーズに合わせて柔軟に調整します。
まとめ
「入金未了の売上に賞与を支払わない」という仕組みは、資金繰りの改善に大きく貢献する実践的な戦略です。適切に導入すれば、キャッシュフローが安定し、短期融資への依存が減少します。また、従業員の意識改革を促し、顧客対応が向上するなどの副次的な効果も期待できます。
A社やB社の成功事例が示すように、この戦略は中小企業の財務健全化にとって非常に有効です。経営者の皆さまには、ぜひこの仕組みを検討し、持続可能な経営基盤を構築していただきたいと思います。