資金繰り改善 NO52
【不採算事業の事業譲渡による中小企業の資金繰り改善策】
中小企業が抱える経営課題の中で、「不採算事業」が資金繰りの悪化や企業全体の収益性低下の原因となるケースは少なくありません。不採算事業とは、売上が一定規模に達していない、コストが売上を上回る、または事業として成長が見込めない状態にある事業のことを指します。このような事業を抱えたままにすると、企業全体の資金繰りや経営資源の効率性が損なわれることがあります。その解決策として注目されるのが「事業譲渡」です。
本記事では、不採算事業を事業譲渡することで資金繰りが改善した実例、事業譲渡のメリットとデメリット、成功事例と失敗事例を解説します。これにより、不採算事業を抱える中小企業が自社に適した意思決定を行えるようサポートします。
1. 事業譲渡とは?
事業譲渡とは、会社の一部または全部の事業を他の企業や個人に売却することを指します。売却により譲渡先企業に事業運営が引き継がれ、譲渡企業は対価として資金を得るか、経営資源を他の事業に再分配することができます。
中小企業における事業譲渡の目的はさまざまですが、特に「資金繰りの改善」と「経営効率の向上」が主要な目的として挙げられます。不採算事業を売却することで、それにかかるコストや負債を削減し、得た資金を成長性の高い事業や新規投資に充てることができます。
2. 事業譲渡のメリット
① 資金繰りの改善
不採算事業を売却することで、譲渡対価として得られる資金が直接的な現金収入となります。これにより、短期的な資金繰りの改善が期待できます。さらに、不採算事業に伴う固定費(賃料、人件費、設備維持費など)が削減されるため、月々のコスト構造も軽減されます。
② 経営リソースの集中
不採算事業の運営には、人材や時間、資金などの経営リソースが必要です。これを手放すことで、本業や成長が見込める事業に経営資源を集中させることができます。
③ 債務削減の可能性
事業譲渡により、譲渡対象の事業に関連する負債を譲渡先に引き継いでもらうことが可能な場合があります。この場合、譲渡企業の財務状況が健全化し、資金調達の幅が広がる可能性があります。
④ 事業再編の柔軟性
事業譲渡は、企業が事業ポートフォリオを再編する一つの手段です。不採算事業を売却することで、他の事業の買収や新規事業への投資など、企業の成長戦略を実行するための原資が確保できます。
3. 事業譲渡のデメリット
① 譲渡先の選定難
適切な譲渡先を見つけるには時間と労力がかかります。譲渡先が不適切であれば、取引が成立しない、または事業譲渡後のトラブルが発生する可能性があります。
② 経営陣や従業員の不安
事業譲渡は経営陣や従業員にとって不安要素となることがあります。特に、従業員が雇用条件の変更や解雇のリスクを懸念する場合があります。これに対応するため、適切なコミュニケーションが必要です。
③ 譲渡後のリスク
譲渡先が事業を適切に引き継げず、社会的信用が損なわれるリスクがあります。譲渡対象事業が譲渡後に問題を起こした場合、元の企業のブランドイメージに影響を及ぼすことがあります。
④ 売却価格の妥当性
不採算事業は通常、収益性が低いため高値で売却できることは稀です。そのため、事業譲渡による対価が十分でない場合、譲渡の効果が限定的になる可能性があります。
4. 事業譲渡による資金繰り改善の成功事例
事例①:小売業A社の事業譲渡
A社は複数の店舗を展開していましたが、郊外型店舗の売上が低迷し続け、全体の利益を圧迫していました。経営陣は、都心型店舗に経営資源を集中することを決断し、郊外型店舗事業を地域密着型のB社に譲渡しました。
結果:
・譲渡代金として2,000万円を獲得。
・郊外型店舗の維持費用(月100万円)を削減。
・都心型店舗の収益が改善し、3年後には全体利益率が10%向上。
事例②:製造業C社の事業再編
C社は特定の部品製造事業において、利益率が低い状況が続いていました。専業メーカーD社にその事業を譲渡することで、売却資金1億円を調達。これをもとに、より利益率の高い製品開発に投資しました。
結果:
・譲渡後2年で新製品が市場でヒットし、売上が前年比30%増加。
・不採算事業にかかる資材費と人件費が削減され、資金繰りが大幅に改善。
5. 事業譲渡の失敗事例
事例①:サービス業E社のトラブル
E社は赤字続きのサブスクリプションサービスを譲渡することで資金繰りを改善しようとしましたが、譲渡先が事業運営に失敗し、顧客トラブルが発生。これによりE社の信用が低下しました。
教訓:
譲渡先企業の経営能力やビジネスモデルの検証が不十分であったことが原因です。譲渡先の選定と契約内容の精査が重要です。
事例②:飲食業F社の価格交渉失敗
F社は不採算店舗を売却する際、譲渡価格が適正価格よりも低く設定されてしまいました。結果として、譲渡後の資金繰りが期待以下にとどまり、さらなる資金調達が必要になりました。
教訓:
適正価格での譲渡を行うために、専門家(M&Aアドバイザーや税理士)の支援を受けるべきでした。
6. まとめ
不採算事業の事業譲渡は、中小企業にとって資金繰り改善や経営効率向上の有効な手段です。ただし、成功させるためには、以下のポイントを押さえる必要があります。
・事業の価値評価: 不採算事業の売却価格を適正に設定する。
・譲渡先の選定: 信頼できる企業を慎重に選ぶ。
・従業員対応: 雇用の安定やコミュニケーションを徹底する。
・専門家の活用: M&Aアドバイザーや弁護士の助言を受ける。
・不採算事業を抱え続けることは、企業の成長を阻害する要因となり得ます。適切な事業譲渡を通じて、企業全体の健全性を高め、成長への道筋を切り開くことが重要です。
◇ 不採算事業の事業譲渡における財務コンサルタントの重要性
1. 財務コンサルタントが提供する価値
① 不採算事業の実態分析
財務コンサルタントは、企業の財務データを詳細に分析し、不採算事業の具体的な原因を特定します。たとえば、以下のような点を検討します:
売上が低迷している原因(市場縮小、競争激化など)
原価率や固定費の割合
キャッシュフローへの影響
これらの情報をもとに、事業譲渡の可否や期待される効果を客観的に判断できます。
② 事業価値の適正評価
事業譲渡を進める際、売却価格の妥当性を見極めることは極めて重要です。不採算事業であっても、事業価値を過小評価して譲渡すると、企業にとって不利な条件での売却となりかねません。
財務コンサルタントは、DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)や市場比較法などを活用して、事業価値を適切に算定します。また、譲渡交渉の過程でも、売却価格の正当性を説明する資料作成を支援します。
③ 譲渡スキームの設計
事業譲渡には、譲渡方法や契約条件を慎重に設計する必要があります。財務コンサルタントは、税務面や法務面も考慮しながら、最適な譲渡スキームを提案します。たとえば:
・譲渡利益にかかる法人税の最小化
・負債の引き継ぎ条件の調整
・従業員の雇用継続に関する取り決め
これにより、企業のリスクを最小限に抑えつつ、事業譲渡を円滑に進めることが可能となります。
④ 譲渡先の選定支援
譲渡先選びは、事業譲渡の成否を左右する重要な要素です。譲渡先が適切でなければ、トラブルや信用問題が発生する可能性があります。財務コンサルタントは、企業のネットワークや市場分析を活用し、適切な譲渡先候補をリストアップします。さらに、譲渡先との交渉にも同行し、企業にとって有利な条件での譲渡を支援します。
2. 財務コンサルタントに相談するメリット
① 客観的な判断ができる
経営者自身が不採算事業を抱えていると、感情的な判断が入りやすくなります。たとえば、「創業時からの事業だから売却に踏み切れない」など、合理的な意思決定が難しくなる場合があります。
財務コンサルタントは第三者としての視点を提供し、経営者が感情に流されずに最善の決定を行えるようサポートします。
② 法務・税務リスクを軽減できる
事業譲渡には、契約書の作成や税務処理など、専門的な知識が必要です。これを誤ると、予期しない損失やトラブルに発展する可能性があります。財務コンサルタントは、弁護士や税理士と連携し、これらのリスクを事前に回避する体制を整えます。
③ 成功確率を高められる
経験豊富な財務コンサルタントは、多くの事業譲渡案件に携わっています。そのため、取引の成功に向けたノウハウを活用し、プロセス全体をスムーズに進行させることができます。また、予期せぬ問題が発生した場合も迅速に対応できます。
3. 財務コンサルタントを活用した成功事例
事例①:製造業X社の事業譲渡
X社は複数の事業を運営していましたが、利益率の低い部門が経営を圧迫していました。経営者は当初、自社内で解決を図ろうとしましたが、具体策を見いだせず財務コンサルタントに相談しました。
コンサルタントの対応:
・事業価値を算定し、適正価格を設定。
・地域の同業他社を譲渡先候補としてリストアップ。
・税務負担を最小化するスキームを提案。
結果:
・譲渡対価として3,000万円を獲得。
・不採算部門にかかる年間1,200万円の固定費を削減。
・主力事業に経営資源を集中し、翌年の収益率が15%向上。
事例②:飲食業Y社の譲渡支援
Y社は直営店舗の一つが赤字続きで、閉店するか譲渡するかの選択を迫られていました。財務コンサルタントのサポートを受け、譲渡を選択しました。
コンサルタントの対応:
・店舗の収益性を分析し、譲渡価格を適切に設定。
・地元のフランチャイズ運営会社と交渉を行い、条件を調整。
結果:
・譲渡代金で2,500万円を調達。
・継続雇用の条件を設定し、従業員の安心感を確保。
・資金をもとに新店舗を開設し、収益を回復。
4. まとめ
不採算事業の事業譲渡は、資金繰り改善や経営効率向上を実現する有効な手段ですが、適切に進めなければリスクも伴います。そのため、財務コンサルタントに相談し、プロの知見を活用することが成功への近道です。
財務コンサルタントは、事業価値の評価から譲渡スキームの設計、譲渡先の選定まで幅広くサポートを提供します。これにより、企業は余計なリスクを回避しつつ、譲渡によるメリットを最大化できます。
不採算事業を抱え、事業譲渡を検討している中小企業経営者の方は、ぜひ財務コンサルタントの力を借り、長期的な企業の成長につなげてください。