
資金繰り改善 NO61
【売上原価を正確に把握することで資金繰りを改善する】
中小企業において、売上原価を正確に把握することは、資金繰りを健全化するための第一歩です。売上原価とは、製品やサービスを提供するために直接必要となる費用を指し、材料費、人件費、外注費などが含まれます。この費用を正確に把握できなければ、利益の計算が不正確になり、経営判断を誤る可能性があります。本記事では、売上原価を正確に把握するメリットとデメリット、実際の成功例や失敗例を取り上げながら、中小企業における資金繰り改善の重要性について解説します。
◇ 売上原価の正確な把握が重要な理由
1. 正確な利益率の算出
売上高から売上原価を差し引いたものが「粗利益」です。粗利益率は、企業の利益率を測る基本的な指標です。これを把握することで、自社の経営が健全かどうかを判断できます。
例:
ある製造業の中小企業A社は、売上が月1,000万円であるにもかかわらず、手元に残る利益が少ないと感じていました。売上原価を精査した結果、材料費が想定以上に高騰していたことが判明。これを受けて、仕入れ先の見直しを行った結果、粗利益率が20%から25%に改善しました。
2. 適切な価格設定
売上原価が明確であれば、適切な販売価格を設定できます。逆に原価が不明確だと、競争力のある価格設定が難しくなり、赤字になる可能性があります。
例:
飲食店を経営するB社は、メニューの原価率が分からず、なんとなく価格を設定していました。後に、メニューごとの原価を計算してみると、人気メニューの「ハンバーグ」が原価率80%でほぼ利益が出ていないことが発覚。このメニューの価格を改定し、さらに低原価率の商品を推奨することで、利益率が向上しました。
3. 資金繰りの計画が立てやすくなる
売上原価が正確に把握できていれば、月次のキャッシュフローを正確に予測できます。これにより、支払い計画や資金調達の必要性を事前に把握することが可能です。
例:
工事業を営むC社は、プロジェクトごとの原価計算を徹底することで、支払い予定額を予測しやすくなり、突発的な資金不足を回避しました。銀行への融資申請もスムーズになり、低金利での借り入れが実現しました。
(売上原価を正確に把握するための方法)
1. 原価計算ソフトの活用
売上原価を正確に把握するには、原価計算ソフトを導入するのが効果的です。手作業ではミスが生じやすいため、自動化ツールを利用することで効率が上がります。
例:
D社はExcelで原価計算をしていましたが、データ入力ミスや計算漏れが頻発していました。クラウド型の原価管理ソフトを導入したことで、計算が正確になり、担当者の作業負担も軽減されました。
2. 部門別の原価管理
売上原価を正確に把握するには、部門ごとや商品ごとにコストを細かく分けて管理することが重要です。
例:
アパレル業のE社では、全商品の平均原価率しか把握していませんでしたが、商品ごとの原価率を計算することで、不採算商品を特定。これを廃止することで、月の利益が15%増加しました。
3. 定期的な見直し
原価率は市場状況や為替レートによって変動するため、定期的に見直すことが必要です。
例:
輸入品を扱うF社は、円安の影響で材料費が大幅に上がっていることに気づかず、赤字が拡大していました。原価を見直し、値上げ交渉を行った結果、収益を確保できました。
(売上原価を把握するメリットとデメリット)
メリット
経営判断が的確になる: 数字に基づいた経営判断が可能。
資金繰りの改善: キャッシュフロー予測が正確になる。
コスト削減が可能: 原価の無駄を発見できる。
デメリット
計算コストがかかる: 初期のデータ収集や計算に時間と労力が必要。
従業員の負担増: 新たな計算方法やソフト導入で従業員に負担がかかる場合がある。
成功事例:売上原価の把握で劇的改善を果たしたG社
G社は製造業の中小企業で、創業以来、利益率が低いことに悩んでいました。売上原価を徹底的に洗い出した結果、原価率が50%を超える商品が全体の30%を占めていることが判明しました。これらの商品を廃止し、利益率の高い商品に集中することで、経常利益が2倍になりました。また、キャッシュフローの改善により、余剰資金を新規事業に投資することができました。
失敗事例:原価把握を怠ったために倒産したH社
H社は建設業の中小企業で、プロジェクトごとのコストを正確に把握していませんでした。売上は順調だったものの、プロジェクトごとの原価超過が常態化しており、キャッシュフローが悪化。最終的に資金ショートを起こし、倒産に至りました。原価管理が甘かったことが直接の原因といえます。
まとめ
売上原価を正確に把握することは、中小企業にとって資金繰り改善の基盤となる重要な取り組みです。これにより、適切な価格設定、経営判断、キャッシュフロー管理が可能になり、企業の持続的な成長を支えることができます。一方で、導入には一定のコストや手間がかかるため、自社の規模や業種に応じた方法を選ぶことが大切です。成功事例や失敗事例から学び、売上原価の把握を徹底することで、安定した経営基盤を築きましょう。
◇ 財務コンサルタントに相談する重要性:売上原価を正確に把握し資金繰りを改善する前に
中小企業が資金繰りを改善するために、売上原価を正確に把握することは重要ですが、そのプロセスに入る前に財務コンサルタントに相談することをおすすめします。売上原価の正確な把握は、企業の経営基盤を強化する大きな効果が期待できますが、その反面、適切な知識や経験がない状態で取り組むと、逆にリスクを招く可能性もあります。この記事では、財務コンサルタントに相談するメリットとその重要性について解説します。
(財務コンサルタントに相談するメリット)
1. 企業の現状を客観的に診断できる
企業内部では、日々の業務や経営状況を熟知している反面、主観的な判断が入りがちです。財務コンサルタントは外部の専門家として、客観的な視点から経営状況を診断し、売上原価や資金繰りに関する問題点を明らかにします。
例:
A社は、自社の売上原価率が業界平均に比べて高いと感じていましたが、原因が分からず放置していました。コンサルタントの診断を受けた結果、原材料の仕入れルートに無駄があることが判明し、改善によって原価率を10%削減することに成功しました。
2. 適切な導入プロセスを設計できる
売上原価を正確に把握するためには、データ収集や分析方法、場合によってはシステムの導入が必要になります。これらを闇雲に進めると、コストや労力が無駄になる可能性があります。財務コンサルタントは、企業の規模や業種に合わせた最適なプロセスを提案し、無駄を省きながら効果を最大化します。
例:
B社は、原価管理を始める際に高額なシステムを導入しましたが、操作が複雑で現場で使いこなせず、結果的に元の方法に戻ってしまいました。その後、コンサルタントのアドバイスで、使いやすいクラウド型システムに切り替え、スムーズな管理を実現しました。
3. リスク回避をサポートする
原価把握を進める中で、データのミスや不完全な分析が生じると、誤った経営判断につながりかねません。財務コンサルタントは、こうしたリスクを未然に防ぐためのチェック体制を整え、計算ミスやデータ漏れを防ぎます。
例:
C社は原価を見直した結果、いくつかの商品を値上げする方針を決めましたが、値上げの影響を十分に検討せずに実施してしまい、顧客離れが発生しました。コンサルタントが関与していれば、需要予測や値上げ後の利益率をシミュレーションでき、リスクを回避できた可能性があります。
4. 資金繰り改善と原価把握を総合的に支援
財務コンサルタントは、売上原価の管理だけでなく、資金繰り全体を改善する視点を持っています。これにより、原価削減の影響を資金繰り計画に組み込むことができ、キャッシュフローの安定性が向上します。
例:
D社は、売上原価を見直すことで仕入れコストを削減しましたが、その結果、一時的に在庫が増加し、資金繰りが逼迫しました。コンサルタントが事前に関与していれば、仕入れ量を調整する計画を立てられ、こうした問題を防げた可能性があります。
(財務コンサルタントに相談しない場合のリスク)
1. 改善効果が限定的になる
専門的な知識がないまま売上原価の見直しに取り組むと、効果が出ないか、最小限にとどまる可能性があります。
2. 誤った経営判断を行う
不正確なデータに基づいた意思決定は、収益悪化や顧客離れを引き起こすことがあります。
3. 余分なコストが発生する
自力で取り組む場合、試行錯誤の時間やシステム導入費用が過剰になる場合があります。
(財務コンサルタントに相談する際のポイント)
実績を確認する: 同業種の支援経験があるコンサルタントを選ぶと安心です。
目標を明確にする: 資金繰りの改善や原価削減など、具体的な目標を共有することで適切な提案が受けられます。
費用対効果を意識する: コンサルタント費用が成果に見合うかを検討することが重要です。
まとめ
売上原価を正確に把握することは、資金繰りを改善するための重要なステップですが、その効果を最大化するためには、財務コンサルタントに相談することが不可欠です。専門家の視点を取り入れることで、効率的かつ効果的に原価管理を進めることができ、企業の収益性と安定性が向上します。相談する際には、具体的な目標と企業の状況を明確に伝え、信頼できるパートナーとしてコンサルタントを活用しましょう。